覚せい剤所持で逮捕された場合
覚せい剤所持に対しては、10年以下の懲役と非常に重い刑罰が科されます。
起訴率は77.7%と他の刑法事犯よりも高いものになっており、他の犯罪よりも弁護活動が難しくなっています。
この記事では、覚せい剤取締法の対象になっている行為とその罰則について触れた上で、覚せい剤所持による事案の特徴と、弁護活動の方針についてお伝えします。
目次
1 覚せい剤取締法によって罪に問われる行為と罰則
覚せい剤の使用に対する罪は覚せい剤取締法によって定められており、所持以外にも次のような行為をした場合に刑罰の対象になります。
・所持・使用:10年以下の懲役
・営利目的での所持・使用:1年以上20年以下の懲役。500万円以下の罰金の併科あり ・輸出・輸入・製造:1年以上20年以下の懲役 ・営利目的での輸出・輸入・製造:無期または3年以上20年以下の懲役。1,000万円以下の罰金の併科あり |
いずれの行為も、営利目的で行っていた場合はより重い刑罰に処されます。
また、上記のうち複数の罪で起訴されると併合罪として処理されます。
併合罪として処理されると、より重い罪について刑罰の上限に加え、その半分を追加したものが刑罰の上限となります。
例えば、所持と輸入を行っていたケースであれば、輸入の方が刑罰が重くなっています。
輸入をした場合の懲役の上限は20年であり、これにその半分である10年を加えた合計30年が、刑の上限となります。
なお、量刑の重さを左右する要因は上記以外にも次のようなものがあります。
・初犯か再犯か
・所持量がどのくらいか ・依存度がどのくらいか |
参考:覚醒剤使用で尿検査、陽性反応でも不起訴で逮捕されない?逮捕後の流れと対処法
2 覚せい剤事案の特徴
覚せい剤に関する事案は、他の犯罪と比べたときに次のような特徴があります。
⑴家宅捜索をされる可能性が高い
覚せい剤の所持が発覚すると、家宅捜索をされる可能性が高くなっています。
家宅捜索は任意ではなく強制執行が可能なので、何の前兆もなく行われます。
自宅や場合によっては職場にもガサ入れが入ることがあり、周囲に覚せい剤を所持していたことが発覚するきっかけになるでしょう。
⑵身柄拘束が長引きやすい
そもそも逮捕や勾留といった身柄拘束は、証拠隠滅や逃走の恐れがある場合になされるものです。
覚せい剤を所持するためには、覚せい剤を誰かから買ったり譲り受けたりする必要があります。
組織犯罪の可能性も疑われるため、接見禁止や勾留をされる可能性は高くなるでしょう。
接見禁止になった場合、家族であっても被疑者と面会をすることができなくなります。
この間は弁護士しか接見を行えません。
逮捕された人の状況を確認したり、今後の見通しを立てたりするためにもできるだけ早めに弁護士に接見を依頼しましょう。
⑶不起訴を得るのが難しい
覚せい剤所持は不起訴を得るのが難しい犯罪です。
刑法犯の起訴率が39.1%であるのに対し、覚せい剤取締法違反の起訴率は77.7%と、極めて厳しいものになっています。
なお、3年以下の懲役を言い渡された人のうち執行猶予がついた人の割合は29.6%と、約7割は懲役刑に処されていることがわかります(参照:平成30年版犯罪白書第4編/第2章/第3節/1)。
なお、不起訴を得るのが難しい理由としては次のようなものがあげられます。
・物的証拠が出やすい
・被害者との示談ができない |
具体的な証拠が出てくる上に、被害者との和解による被害届の取り下げも狙えないため、覚せい剤所持の場合は不起訴ではなく執行猶予やより軽い罪を目指して刑事弁護をすることになります。
参考:大麻取締法で逮捕されるとどうなる?覚せい剤(覚醒剤)との違いは?罪の重さは?
3 覚せい剤所持で逮捕された場合の弁護活動
では、覚せい剤所持で逮捕された際に、弁護士が具体的にどのような弁護活動を行うのか確認していきましょう。
⑴接見に向かう
逮捕後は、最低でも3日間は接見禁止となり、弁護士以外は面会できない状況になります。
この間に弁護士が被疑者と面会をして、取り調べに対していかに受け答えをするべきかアドバイスをしたり、現状を把握して今後の対策につなげたりすることができます。
警察の取り調べで実際よりも頻繁に覚せい剤を使用していたとか、よりたくさん所持していたなど不用意な供述をしてしまうと、最終的に必要以上に重い罪を課されてしまう可能性も否めません。
罪を認めて反省することは必要ですが、あくまでも現実に基づいた供述をする必要があります。
⑵再犯防止のための環境を整える
良い情状を裁判官に主張することで、処罰が軽くなることがあります。
被告人が反省していること、再発防止の対策をしていること、初犯であることなど、被告人にとって有利になる事実を集めていき、刑事裁判に備えます。
⑶贖罪寄付をする
覚せい剤事件のように被害者と示談交渉ができないような事案の場合は、別の方法で反省している姿勢を示す必要があります。
その方法の一つに贖罪寄付があります。
贖罪寄付とは、文字通り罪を償うための寄付のことをいいます。
贖罪寄付をした後は、寄付の証明書を弁護士が検察官や裁判官に提出します。
⑷保釈請求をする
起訴後の勾留は原則2ヶ月と非常に長期間であり、身柄拘束が長引けば長引くほど、多くの不利益を被ることになります。
起訴された後は、なるべく早いタイミングで保釈の申請と保釈金の納付をして、被告人の身柄解放を目指します。
⑸証拠収集の違法性を主張する
違法な捜査によって得られた押収品は、証拠として使用できません。
証拠が違法な手段によって得られたことを理由に、無罪を主張する場合があります。
具体的には、令状なしに警察が家宅捜索をした場合、覚せい剤が見つかったとしても、違法捜査であるため証拠とすることはできず、刑事裁判で無罪が認められる場合があります。
4 覚せい剤所持の裁判事例
最後に、覚せい剤所持の裁判例をご紹介します。
⑴覚せい剤を単純所持・自己使用した事案
自己使用のために覚せい剤を所持・使用し、懲役2年の刑罰に処された事案です。
覚せい剤を使用した被告人が110番通報を受けて駆けつけた警察に逮捕されました。
警察署の保護室にて尿を採取され、覚せい剤の成分が検出されたそうです。
加えて、家宅捜索をした警察が被告人の自宅から覚せい剤1袋を押収し、覚せい剤の使用と所持で起訴されることとなりました。
被告人には前科前歴があり、公判中に証人に襲い掛かろうとするなど、反省の色が見られず、情状酌量をされることはありませんでした。
⑵営利目的で覚せい剤を所持・譲渡した事案
覚せい剤19袋を所持し、営利目的で譲渡した罪で懲役8年6ヶ月と300万円の罰金に処された事例です。
被告人は札幌市の駐車場で、覚せい剤を含む結晶を複数回譲渡し、また、被告人が借りている家の車庫に覚せい剤を所持していました。
罪状が重くなった理由としては、次のような点があげられます。
・1年間に40人以上に700回以上覚せい剤を譲渡し、多額の利益を得ていた
・共犯者が存在し、明確に役割分担をしており悪質性が高かった ・被告人の反省や公正環境に情状酌量の余地がなかった |
5 まとめ
今回は、覚せい剤所持で覚せい剤取締法に違反した際の刑罰や、逮捕後の傾向、弁護活動の方針についてご説明いたしました。
覚せい剤所持は他の犯罪よりも厳しく罰せられる傾向があり、身柄拘束が長くなることも考えられます。
逮捕後はできるだけ早く弁護士に接見を依頼し、今後の見通しを立てることが重要です。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。