刑事裁判における証人尋問のポイントとは
証人尋問という言葉をご存じでしょうか。
よくテレビや映画などで、裁判官、弁護士、検察官が法廷の中で言い合うシーンがありますよね。
あのシーンは大半が証人尋問だと考えてください。
証人尋問とは、簡単にいえば検察官や弁護士が証人に質問をし、その回答(供述)から証拠を得る行為です。
一般的にはあまり馴染みがない言葉ですが、刑事裁判において証人尋問は非常に重要な意味を持っています。
証人尋問の流れ次第で、判決が変わることすらあるからです。では一体、証人尋問のポイントとはどのようなものなのでしょうか。
1 証人尋問は”取り調べ”ではない
証人尋問は、一人の証人に対して弁護士、裁判官、検察官が質問する行為です。
これはいわば、裁判が行われる法廷の中で「証拠調べ」をしていると言い換えることができます。
よく「取り調べ」と混同されることがありますが、捜査段階で行われる取り調べと法廷内で行われる証人尋問は、全く異なります。
取り調べは真相解明のために膨大な時間をかけ、その方法が適切でありさえすればどんなことでも質問できます。
また、特に時間制限もありません。しかし、証人尋問は「法廷内で証拠をあぶりだす」ことを目的にしていて、時間制限もあります。
したがって、証人が発言した証言のひとつひとつが全て証拠になり、取り調べのように融通が利きにくいのです。
また、証人尋問では、検察側、弁護側ともにあらかじめストーリーや戦略を練ったうえで臨むのが一般的です。
法律の専門家にとっては、まさに「腕の見せどころ」といえます。
2 証人尋問のポイント
前述したとおり証人尋問は、時間制限があり、全ての発言が証拠につながりますから、入念な準備をしたうえで行われます。
また、尋問は主に「主尋問」と「反対尋問」に分類されます。
主尋問とは、味方である証人に質問をし、有利な証言を引き出す行為です。
これに対して反対尋問は、相手側が自分側の証人に質問する行為です。
このとき、ポイントになるのは以下のようなことです。
⑴主尋問のポイント
・ストーリー性を確保するために、時系列にそって発言させる ・尋問する側はあくまでも証人の話を引き出す役である ・相手方とどういった点で対立しているのかを明確にするよう、質問する ・誘導にならないよう、あらかじめ質問のテストをして準備する |
主尋問は裁判官が最初に耳にする、ストーリー仕立ての全体像です。
そのため、できるだけシンプルかつ明確な証言になるよう質問を工夫します。
⑵反対尋問のポイント
・あらかじめ回答を予想し、自分側のためにならない質問はしない ・証人に余計な発言をさせない(誘導を意識する) ・証人と敵対しない、敵意を煽らない ・議論しない |
一般的に日本の刑事裁判では、検察官が主尋問を行い、これに対して弁護側が反対尋問を行うという流れになります。
⑶もし証人になったら……?
刑事裁判で証人になると、証言台に立って発言することになります。このとき、証人は目の動きや表情の変化なども、裁判官にチェックされると考えてください。したがって、質問してくる検察官や弁護士ではなく、裁判官のほうを向いて発言します。
また、うその証言は「偽証罪」という罪になるうえに「黙秘権」もありません。
ただし、刑事裁判では自分の発言が身近な人の罪につながる場合のみ、証言を拒否できます(証言拒絶権)
さらに、医師や弁護士などに課せられる「守秘義務」も、発言を拒否する理由になります。
3 証人尋問は弁護士の力が不可欠
反対尋問を行う弁護士は、主尋問で決定づけられたストーリーを崩し、裁判官の心証を引き戻すことを意識します。
刑事裁判では検察側の主尋問によって、裁判官の心証の大部分が決まってしまうと言われており、これを完全に覆すのは難しいでしょう。しかし、反対尋問で相手側の矛盾や不備をつくことができれば、刑罰が軽くなったり、執行猶予がつけられたりと、判決に大きな差がつくのです。
弁護士によっても「尋問のスキル」はバラつきがありますが、しっかりと訓練と経験を積んだ弁護士は、証人尋問でその力を大いに発揮します。もし刑事事件に巻き込まれたら、経験豊富な弁護士に依頼して、サポートを受けるようにしましょう。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。