痴漢と強制わいせつの違いと対処法(現:不同意わいせつ)
痴漢は,連日ニュースや新聞でも取り上げられ、社会的に厳しい批判が行われています。
しかし,日本には痴漢罪という犯罪があるわけではありません。
痴漢をしてしまったら,どんな罪に問われるのでしょうか?
今回は痴漢の罪について解説します。
目次
1 痴漢と強制わいせつ(現:不同意わいせつ)の違い
結論から言うと,痴漢は、その行為の態様に応じて、適用される法律が異なります。
具体的には,服の上から女性の身体を触る、太ももを撫で回す、背後から密着して身体や股間を押し付けるとかの態様であれば、各都道府県の迷惑防止条例違反になる可能性があります。
しかし、女性の陰部を直接触るなどの態様は強制わいせつ罪(現在は不同意わいせつ罪)に該当する可能性があります。
簡単に言うと、痴漢の態様の中でも、比較的軽い行為態様の場合には、迷惑防止条例違反,となります。
他方で、痴漢の態様の中でも、比較的重い行為態様の場合は、不同意わいせつ罪,となります。
なお,スカートなどの衣服を切り裂く行為は,物を壊す行為になりますので,器物損壊罪に該当することになります。
参考:【必見】痴漢の自首の6つのメリットと弁護士の自首同行のメリット
⑴迷惑防止条例
第六条
(略) 2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。 一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。 (略) 第十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 一 第二条の規定に違反した者 二 第六条の規定に違反した者(第十五条の規定に該当する者を除く。) 2 常習として前項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 |
服の上から女性の身体を触る、太ももを撫で回す、背後から密着して身体や股間を押し付けるとかの態様であれば、各都道府県の迷惑防止条例違反になる可能性があります。
大阪府迷惑防止条例の場合、法定刑は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
参考:盗撮行為、つきまとい行為、暴行や脅迫を用いた痴漢行為など迷惑防止条例違反の量刑は?罰金は?初犯の場合は?
⑵不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪)(刑法176条)
(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。 一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。 |
不同意とは,同意を得ずに,または同意を得ることが出来ないであろう状況をいいます。
このような状況で,わいせつな行為を行えば,不同意わいせつ罪に問われます。
電車内で突然見知らぬ人に体を触られたら,怖くて抵抗できないでしょう。
このような状況は,「五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。」
または
「六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。」にあたる可能性があります。
迷惑防止条例違反となるか,不同意わいせつ罪となるかは,「体に触れた」程度か,「わいせつな行為」かによって区別されます。
下着の中に手を入れる行為はわいせつ行為に当たる可能性が高いです。
もっとも,衣服の上からであっても,場所や触っていた時間によってはわいせつな行為に該当する可能性もあります。
法定刑は,6か月以上10年未満の懲役刑です。
(3)不同意性交等罪(旧:不同意性交等罪)(177条)
(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。 |
不同意わいせつ罪と同様の状況で,「性交等」を行えば,不同意性交等罪が成立します。
性交等と聞くと痴漢とは結び付かないかもしれませんが,「性交等」とは,以下のようなわいせつな行為を言います。
・性交 ・口腔性交 ・膣又は肛門に身体の一部若しくは物を挿入する行為 |
特に,膣又は肛門に身体の一部若しくは物を挿入する行為も性交等に含まれますので,単なる痴漢行為と思っていた行為が
不同意性交等罪に該当するケースもあるので,注意が必要です。
法定刑は重く,5年以上の有期懲役です。
参考:不同意性交罪とは?不同意性交罪がいつから適用されるのか、成立要件などを解説
参考:証拠がない?相手方の同意なしでの性行為は不同意性交等罪に
(4)器物損壊罪 (261条)
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 |
痴漢行為の際に,女性の衣服を破く,アクセサリーを破損する,衣服に体液を付けるなどすれば,器物損壊罪に当たります。
法定刑は,三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料です。
2 痴漢で実際に逮捕されたケース
【津地方裁判所 令和 2年 5月21日】
・判決主文:被告人を懲役6月に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。 ・罰条:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(三重県)15条6項,1項1号 ・量刑の理由の要旨: 被告人は,令和元年10月中旬から同年12月末までの2か月ほどの間に立て続けに5件,混雑した電車内や路上で,制服姿の女子高生の臀部を着衣の上から触る態様の痴漢行為を重ねたもので,この種事犯に対する常習性・傾向性が認められる。とりわけ,路上で行われた犯行(同年10月23日に行われた2件の犯行)については,原動機付自転車で走行中に,自転車に乗った女子高生を発見するや,その臀部を手で触るために,速度を落として背後から近づき,自転車に幅寄せした上で犯行に及び,更にその約5分後に,再度同じ被害者に対し,同様に背後から近づき,同様の犯行に及んだものであって,傾向性の強さが顕著であるだけでなく,被害者が転倒して負傷するなどの危険をはらんでいた点や犯意が強固である点においても悪質さが際立っている。いずれの犯行についても犯行動機に酌むべきものは皆無である。以上の諸点に照らすと,被告人に前科前歴がないことを考慮しても,罰金刑で済ませることはできず,懲役刑の選択を免れない。 もっとも,①一部の被害者との間で40万円が支払われて示談が成立していることのほか,②被告人に前科前歴がないことや,③家族が監督を約束していること,④被告人の反省状況等に照らすと,一度は被告人の自覚に期待して社会内で更生する機会を与えるのが相当であるから,懲役刑の執行を猶予することとした。 ただし,被告人にはこの種事犯に対する傾向性が顕著に認められるにもかかわらず,被告人にその点の自覚が乏しいように見受けられ,被告人の自覚のみでは心もとないところがあるので,被告人の確実な更生のためには公的機関の指導監督が欠かせないものと認め,併せて保護観察に付すこととした。 |
被告人は,迷惑防止法条例違反の罪に問われました。
2ヶ月で5件もの痴漢行為を繰り返し,その態様も危険なものであったため,常習性があるとして,懲役6カ月が処されました。
痴漢の常習犯の量刑が,一年以下の懲役又は百万円以下の罰金であることを踏まえると,重い罪が処せられていることが分かります。
もっとも,裁判所は,被告人に執行猶予3年を付けた上で,保護観察に付すことを決定しました。
執行猶予とは,刑の執行の猶予をいい,3年間問題なく過ごせば,6カ月の懲役がなかったことになります。
さらに,保護観察処分が付いていますので,被告人は社会の中で更正できるように,保護観察所のもとで生活についての指導を受けることになります。
3 痴漢事件の弁護方針
(1)痴漢の罪を認め,自白している場合
ア 痴漢の迷惑防止条例違反の場合
被疑者が痴漢を自白している場合には、示談こそが弁護活動において最も重要です。
そもそも、被害者との連絡や示談交渉は,弁護士が入らなければ原則的にはできません。
被害者が加害者に連絡先を教えることはありえないからです。
ですので、痴漢事件で不起訴処分を獲得するためには,弁護人を付けた方がよいことは間違いありません。
また,示談金の相場は20万円~50万円程度です。
被害者と示談が難しい場合であっても,示談の交渉の経緯についての報告書をまとめて提出したり,贖罪寄附をして反省の気持ちを示すような弁護活動を行うことがあります。
また,痴漢をもう二度としないためにも、必要に応じて専門の医療機関の治療を受け、そこでの診断書を証拠資料として提出することもあります。
イ 痴漢が不同意わいせつ罪である場合
痴漢が不同意わいせつの場合には,単なる迷惑防止条例違反の場合よりも,行為態様が比較的重いことになります。
そのため,迷惑防止条例違反の場合に比べて,示談の際に提案する金額が上がる可能性があります。
不同意わいせつの示談金の相場は,事案によりけりですが,30~50万円,特に悪質な場合には100万円ぐらいまでになるケースもあります。
不同意わいせつ罪の法定刑は,6か月以上10年未満の懲役刑であり,罰金刑がありません。
ですから,示談活動をしなければ,起訴されて正式裁判になります。
つまり,テレビドラマで見るような公開法廷で刑事裁判を受けることになります。
他方で,迷惑防止条例違反の痴漢の場合であれば,示談活動を全くしなくとも,略式手続きの罰金刑で終わることがあります。
そのため,痴漢が不同意わいせつ罪となる場合には,示談活動の必要性はより強い,と言えます。
(2)痴漢の罪を否認している場合
ア 痴漢の迷惑防止条例違反の場合
被疑者が痴漢を否認している場合には,被疑者の供述が被害者の供述よりも具体的でしっかりとしていることが重要です。
矛盾のある供述は,嘘をついていると思われかねません。
また,そもそも完全に黙秘することが有効であることも往々にしてあります。
特に逮捕勾留されてしまえば、警察などの捜査機関側は捜査機関側に有利な証拠を作るために動きます。
そのため,一人で追いつめられた状況では、事実とは異なる自白が取られてしまうこともあります。
そこで,逮捕後は極力早く弁護士に接見を依頼し、自分の供述が矛盾していないかどうか判断してもらうなり,黙秘を貫く方針にするかを協議することが重要です。
最後に、痴漢の場合、弁護士が被疑者の家族から身柄引受書を作成してもらい,検察官や裁判官に対して身柄引受書と共に意見書を提出することによって,
早期に被疑者が釈放されることもあります。
その場合、職場や学校にばれなくて済む可能性も十分あります。
だからこそ、逮捕された場合には,極力早期に弁護人をつけた方がよいです。
この方針は、強制わいせつが、不同意わいせつになった今もやるべきことは変わりません。
このように,痴漢を否認することで証拠が不十分な場合には,嫌疑不十分ということで,不起訴になるケースもあります。
もっとも,痴漢を否認していても,証拠が十分であると検察官が判断した場合には,起訴されることになります。
起訴されれば,正式裁判になり公開法廷で刑事裁判を受けることになります。
しかし,日本の刑事裁判の有罪率は99%とかなり高くなっています。
そこで,実際には,やっていないと否認しつつも,起訴されないために予備的に示談活動を行っておくというケースもあります。
この点は,痴漢の示談に強い弁護士にご相談するようにしてください。
イ 痴漢が不同意わいせつ罪である場合
不同意わいせつ罪の法定刑は,6か月以上10年未満の懲役刑であり,罰金刑がありません。
そして,不同意わいせつ罪について否認を続けて証拠が不十分な場合には,嫌疑不十分ということで,不起訴になることもあります。
もっとも,痴漢を否認していても,証拠が十分であると検察官が判断した場合には,起訴されます。
起訴されれば,正式裁判になり公開法廷で刑事裁判を受けることになり、日本の刑事裁判の有罪率は99%ですからほぼ有罪となります。
つまり、不同意わいせつ罪の場合には、罰金刑がないので、懲役刑が下されることになり、あとは執行猶予が付くかどうかの勝負,ということになります。
すなわち、痴漢が迷惑防止条例違反にとどまる場合に比べて,否認を続けた場合のデメリットは大きいです。
そこで,やっていないと否認しつつも,起訴されないために予備的に示談活動を行っておくというケースが多いです。
そのため,痴漢が不同意わいせつ罪となる場合には,示談活動の必要性はより強い,と言えます。
4 痴漢と強制わいせつ(現:不同意わいせつ)の違いのまとめ
今回のコラムでは,痴漢がどのような犯罪に該当するのか?
痴漢と不同意わいせつの法定刑の違い,弁護方針の違い,痴漢で逮捕されたらどうすればいいのか?について解説しました。
痴漢は,早期に適切な対応を行うことで,不起訴や執行猶予を受けることが出来る可能性のある犯罪です。
痴漢をしてしまって今後が不安な方,痴漢をしてもいないのに疑いをかけられている方は,弁護士にアドバイスを求めましょう。
法律事務所ロイヤーズハイは,痴漢を含む刑事件の実績が豊富な弁護士が在籍しております。
ぜひ,法律事務所ロイヤーズハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。