性犯罪の厳罰化
このコラムは,2023年7月13日までに起こした性犯罪に適応される強制性交等罪についてのものです。2023年6月23日に公布され,2023年7月13日に施行される改正刑法については,以下のコラムを参照してください。
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改正刑法が2017年7月13日施行されました。刑法は明治40年に制定されたものであり、現状を反映していないとの指摘が以前よりありました。
今回は約110年ぶりの大幅な改正となり、例えば次のような変更点があげられます。
旧強姦罪の刑罰の下限が引き上げられた
被害者からの告訴がなくても検察が被疑者を起訴できるようになった
性犯罪加害者に対して厳罰を期待しやすくなったものの、暴力や脅迫がなければ強制性交等罪が成立しないなど、被害者の立場からすればまだまだ課題が残っていると言わざるを得ません。
この記事では、性犯罪厳罰化で変わったポイントと、今後の課題について解説します。
目次
1 性犯罪厳罰化による主な変更点
ここでは、性犯罪厳罰化による変更点について具体的にご説明します。
【主な変更点】
⑴強姦罪の名称が強制性交等罪に変更された
⑵強盗強姦罪が新設された ⑶親告罪から非親告罪に ⑷家庭内での性犯罪を想定した罪が新設された |
⑴強姦罪の名称が強制性交等罪に変更された
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。 (引用元:刑法第177条) |
強姦罪の対象になる行為の範囲や、刑罰の重さが見直されました。強姦罪は強制性交等罪に名称が変更され、具体的に次のような点が変更になりました。
①性交類似行為も処罰の対象に
以前は性交のみが処罰の対象でしたが、刑法改正後は性交類似行為も処罰の対象になりました。性交類似行為とは、オーラルセックスやアナルセックスなどのことを指します。
②女性だけでなく男性も被害者の対象に
強姦罪は被害者の対象が女性だけでしたが、刑法改正後は男性も被害者として認められるようになりました。この変更により、女性から男性、男性から男性への強制性交等も罪の対象となります。
③懲役刑の下限が引き上げられた
強姦罪の罰則は3年以上の有期懲役でしたが、強制性交等罪の罰則は5年以上の有期懲役とその下限が引き上げられています。
これによって、強制性交等罪で有罪判決が言い渡された場合、執行猶予がつきにくい状況となりました。執行猶予は3年以下の懲役刑が言い渡された場合につくものなので、5年以上の懲役刑が言い渡された場合は情状酌量で罪が軽減されない限り、刑務所に服役することになります。
④集団強姦罪の廃止
複数の人間による強姦を想定して設けられた集団強姦罪ですが、以前は強姦罪より重い4年以上の懲役が課されていました。
強姦罪の名称変更に伴って、集団強姦罪は強制性交等罪に吸収される形で一本化されることになりました。今度集団で強制性交等に至った場合は、加害者全員に強制性交等罪の刑罰が科されます。
⑵強盗強姦罪が新設された
強盗と強制性交等を同時に行なった場合、以前は行為の順番によって刑罰の内容に差がありました。刑法改正によって強盗強姦罪が新設された結果、行為の順番に関係なく無期または7年以上の懲役に処されるようになりました。
⑶親告罪から非親告罪に
刑法改正前は親告罪といって、被害者が警察に被害届を提出したり告訴をしたりしなければ捜査を開始することができませんでした。性犯罪の被害者にとって、性犯罪を受けたことを警察に告げるのは極めてハードルの高いものです。
刑法改正後は、非親告罪になり被害者からの訴えがなくても捜査を開始できるようになりました。非親告罪になった罪には次のようなものがあります。
・強制性交等罪
・準強制性交等罪 ・強制わいせつ罪 ・準強制わいせつ罪 ・わいせつ目的、結婚目的の誘拐など |
⑷家庭内での性犯罪を想定した罪が新設された
『監護者わいせつ罪』『監護者性交等罪』の2点が新設されました。これにより、親などの監護者が18歳未満の児童に対してその立場を利用してわいせつ行為や性交等を行なった場合は刑事罰に問われるようになりました。
監護者わいせつ罪の罰則は6か月以上10年以下の懲役、監護者性交等罪の罰則は5年以上の有期懲役です。
2 性犯罪厳罰化の今後の課題
性犯罪が厳罰化されたものの、改正刑法だけでは被害者の権利を十分に守れないのではないかという懸念もあげられています。ここでは、性犯罪厳罰化の今後の課題についてご説明します。
⑴暴力・脅迫がないと罪が成立しない
日本では性犯罪が成立するためのハードルが欧米と比べて高いと言われています。強制性交等罪が成立するためには暴力・脅迫がないといけませんし、準強制性交等罪が成立するためには心神喪失や抗拒不能であることが前提条件となります。
上記を満たさない限り、被害者が性交等に同意していなかったとしても罪に問われる保証はありません。
例えば被害者の女性が男性に無理やり性交等をされるようなケースで、女性が恐怖により抵抗ができなかったとします。性犯罪被害者の女性は必ずしも体格が上である男性に対して抵抗できるわけではないので、暴力を振るわなくても不同意の性交が行われることはあります。
諸外国では日本と比べて不同意による性犯罪が広く処罰されるルールになっており、刑法は改正されたが、性犯罪が成立するハードルは依然として高いままではないか、という指摘もあげられています。
⑵被害者の負担が大きい状況は変わらない
性犯罪の非親告罪化で被害者が被害届を提出しなくても捜査を開始できるようになりました。しかし、性犯罪の加害者が自首をするようなケースは稀であり、警察が事件を認知するためには被害者からの訴えが必要であることに変わりはありません。
被害者が告訴をした場合、事実確認のために警察から取り調べを受ける必要がありますし、裁判になれば人前で事件について証言をしなければいけない場面も想定されます。
このような理由から、以前から被害者は被害届を提出しにくく泣き寝入りしてしまう方も多い状況でした。非親告罪になったのは大きな進歩ではありますが、被害者の負担を軽減するという観点で考えれば未だ十分であるとは言い切れないのではないでしょうか。
⑶時効の期間が短いとの声も
強制性交等罪の時効は10年となっていますが、被害者の年齢や状況によっては時効が短いという懸念もあります。
仮に、10歳の児童が親に性交等をされたとします。この場合、児童が一人で生活をできる年齢になるには早くても8年以上時間がかかります。
子供が生きていくためには親の支えが不可欠ですし、10歳の児童が家庭内の問題を他人に相談したり、まして警察に被害届を提出したりするのはハードルが高いことです。被害者が落ち着くための時間を考えると、10年では短いようなケースも考えられます。
⑶性交同意年齢が低い可能性がある
性交同意年齢とは、性行為の同意能力がある年齢の下限のことを言います。日本の性交同意年齢は13歳であり、諸外国と比べると低年齢です。2008年に国連から性交同意年齢を引き上げるような勧告がありましたが、今回の性犯罪厳罰化では性交同意年齢に関して特に変更はありませんでした。性交同意年齢が13歳である場合、例えば14歳や15歳は性交のリスクを理解し、自分の身を自分で守らなければいけないことになります。
⑷監護者の範囲が狭い
監護者性交等罪が新設され、児童が身近な大人から性犯罪を受けた際に罪に問いやすくなりました。しかし、監護者の範囲は主に保護者であり、教師や部活の顧問などは現段階では監護者に当たりません。
身近な大人から児童を守るためには、親以外の大人も監護者に含める必要があるかもしれません。
3 まとめ
この記事では、性犯罪厳罰化による変更点と今後の課題についてご説明しました。刑法改正について理解を深める一助となれれば幸いです。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。