「弁護士に相談する」と言うのは脅迫罪になる?成立要件と脅迫罪に問われた場合の対処法
30代のAさんは,会社で管理職に就いています。ある日,部下の一人がインターネット上で会社やAさんについて根拠のないデマを流すなどし,会社に風評被害が発生してしまいました。Aさんは部下に対し,「弁護士に相談することも視野に入れている」と告げたところ,「Aさんの行為は脅迫罪にあたる」と反論を受けたのです。
このような場合,Aさんは本当に脅迫罪に問われてしまうのでしょうか。
脅迫罪の一般的なイメージと言えば,相手に対して「お前の子供を殺すぞ」「殴られたいのか」などの暴言を吐くようなケースが多いでしょう。
今回の事例で問題になっている,「弁護士に相談する」との発言は暴言にはあたらないように思えます。
「弁護士に相談する」との発言が脅迫罪に問われることはあるのでしょうか。
問われた場合,どのように解決するべきでしょうか。
今回の記事では,脅迫罪について解説していきます。
目次
1 「弁護士に相談する」と言うのは脅迫罪に当たる?成立要件とは
第222条 脅迫罪 1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。 2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。 |
(1)害悪の告知について
脅迫罪が成立するには,「一般人が畏怖する程度の害悪の告知」の有無が重要です。
①対象と手段
ここでいう「害悪の告知」とは,条文上の”生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知”にあたります。
5つのいずれかに該当しない限り,脅迫罪は成立しません。
もっとも,本人の法益だけでなく,親族の法益も対象になります。お前の子供を殺してやる!という発言は,脅迫罪が成立し得るでしょう。
一方で,友人や法人は対象になりません。
害悪の告知は手段を問いません。
直接の告知はもちろん,手紙,電話やメール,SNS等のインターネット,手紙,または無言で刃物を振り回すこともこれに当たる可能性があります。
②一般人が畏怖する程度
害悪の告知は一般人が畏怖する程度のものである必要があるため,相手方との関係性,その場の状況にも影響されます。
例えば,小学生が道端で「ころすぞ!」と叫んでも一般人が畏怖する程度とは言えませんが,成人男性が「殴られたいのか」と言った場合,一般人が畏怖する程度の害悪の告知と言えるでしょう。
(2)「弁護士に相談する」発言について
では,「弁護士に相談する」という発言はどうでしょうか。
弁護士に相談すると伝えることで,相手方は,弁護士から何かしらの法的手続をとられると思い,生命,身体,自由,名誉又は財産に対して何かしらの不利益が与えられる可能性があると考えると思います。
弁護士に相談すると言われれば,意思決定に影響を及ぼすほどの畏怖が生じるとも思えます。
判例は,告訴ヲ爲ス意思ナキニ拘ハラス誣告者ヲ畏怖セシムル目的ヲ以テ該告訴ヲ爲スヘキ旨ノ通告ヲ爲シタルトキハ脅迫罪ヲ構成スとしています。(大審院 大正3年12月1日)
つまり,訴えるつもりがないにもかかわらず,脅しのつもりで「訴えるぞ!」と相手に伝えることは脅迫罪になりうるのです。
今回のAさんのケースでは,実際に会社として弁護士に相談し,風評被害へ対処していくことが考えられますから,問題を起こした部下に対する正当な権限の行使というべきでしょう。
そこで,脅迫罪が成立する可能性はまずない,と思います。
もっとも,「相談しない代わりに金銭を寄越せ」などと言ってしまうと問題になります。
2 「弁護士に相談する」と言って脅迫罪に問われた場合の対処法
ところで,本件のようなケースでは,脅迫罪になることはまずありませんが,仮に,脅迫罪や強要罪にあたりうるような態様をしてしまった結果,被害者に被害届を出された場合、警察に逮捕され,さらに刑事裁判になる可能性があります。
脅迫罪の法定刑は,2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
不起訴や執行猶予がつくことももちろんあり得ますが,悪質なケースであれば初犯でも執行猶予がつかず,実刑になるかもしれません。
そこで,被害届を取り下げてもらい,執行猶予や不起訴の判断を得るためにも,被害者との示談が必要です。
この際に,加害者側が被害者へコンタクトを取ることは難しいこともあります。
インターネットなどを通じて匿名で脅迫した場合には,被害者の連絡先を知らないことが多いでしょうし,仮に被害者が知り合いであったとしても,第三者である弁護士を介することで示談が円滑に進みます。
3 弁護士に相談する場合の注意点
逮捕されてしまった場合,起訴か不起訴かの判断は,最長でも23日間で決定してしまいます。
そもそも,逮捕された時点で,日常生活への影響は計り知れません。
そこで,刑事事件に関しては,できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
最初からアドバイスを受けることで,取り調べや示談においてかなり有利になります。
4 まとめ
今回の記事では,「弁護士に相談する」との発言が脅迫罪に該当する可能性について述べました。
脅迫罪が成立するかどうかはその場の状況に影響されます。
ご自身やご家族が脅迫罪で逮捕されるかもしれない,そんな不安が少しでもある方は,早期のご相談をお勧めします。また,正当な権利を行使するために「弁護士に相談する」と伝えたのに,「脅迫された」などと言って,話にならない場合にも弁護士に相談されることをお勧めいたします。
刑事事件に注力している法律事務所ロイヤーズハイに,ぜひともご相談ください。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。