証拠がない?相手方の同意なしでの性行為は不同意性交等罪に
性行為は双方の同意があって行われるものですが、時に相手の同意なしで行われる場合もあります。
同意なしでの性行為は相手に対して心身共に強いダメージを与えることになるので、逮捕や裁判となる可能性が高いです。
もしも同意なしで性行為に及んだ場合、どのような罪を問われるのでしょうか?
今回は性行為に関する犯罪と裁判になってしまった時の対処法をご紹介していきます。
関連コラム:不同意性交罪とは?不同意性交罪がいつから適用されるのか、成立要件などを解説
目次
1 同意なしの性行為は、不同意性交等罪が成立する可能性がある
同意なしで無理やり性行為を及べば犯罪となってしまいます。
また、一方的に同意を得たと勘違いして行為に及んだり、後になって関係が拗れて同意があっても相手方がなかったと主張して被害を訴えたりするケースも多いです。
まずは同意なしの性行為とみなされた場合、どのような罪に問われるのかご紹介します。
⑴不同意性交等罪(旧:強制性交等罪)
2023年7月13日から、刑法の改正により、不同意性交等罪(刑法177条)が適用されることになりました。
以前は、強制性交等罪とされていた罪です。強制性交等罪は、13歳以上の者を暴行・脅迫して性交等を行うと成立していました。
この罪に該当する暴行や脅迫とは、相手を殴る、ナイフなどの武器を使って脅すような相手の抵抗を難しく行為です。
しかし、不同意性交等罪に法改正されたことで、必ずしも暴行脅迫がなくとも,同意がないような状況である場合の性交渉については、不同意性交等罪が成立します。
また、不同意性交等の「性交等」には性交、肛門性交や口腔性交の他、膣や肛門に、陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為も含まれています。
また、不同意性交等罪は、配偶者やパートナーの間でも成立することになっています。
近年、性犯罪に対する規制は強化されています。
流れでいうと、当初は、「強姦罪」と呼ばれた犯罪でした。
強姦罪は、男性器を女性器に入れる行為、つまり女性が被害者である場合に適用された刑罰でした。
その後、強姦罪から強制性交等罪に改正されました。「性交等」に変更されたことで男性も被害を訴えやすくなりました。
しかし、強制性交等罪は、暴力や脅迫を受けずに性交等が行われた場合は、強制性交等罪に問われない可能性がありました。
そこで、今回の不同意性交等罪が制定されたという流れがあります。
⑵不同意強制性交等罪(旧:準強制性交等罪)
準強制性交等罪は、相手の心神喪失や抗拒不能にさせた、もしくはその状態を利用して性交等を行った場合に適用される罰則です。
心神過失は、精神障害などで判断力がない状態のことを示します。
例えば、お酒により泥酔している時や睡眠薬で眠らせている状態が当てはまります。
一方、抗拒不能は心神過失以外の事情で抵抗が難しい状態のことです。
医師などが治療や施術を称して性交等を行ったケースなどが抗拒不能に該当します。
しかし、2023年7月13日の法改正によって,準強制性交等罪は,上述した不同意性交等罪に一本化されています。
そして、改正後は、準強制性交等罪の趣旨は不同意性交等罪の177条1項、176条1項2号ないし4号で現れています。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。 |
⑶不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪)
性交等がなくても、暴行や脅迫、あるいは心神過失・抗拒不能に便乗してわいせつな行為を働いた場合は強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪に当たっていました。
わいせつな行為は、被害者に対して性的な羞恥心を害する行為のことです。
具体的には、キスや胸、お尻などに直接触れることを指します。
しかし、2023年7月13日の法改正によって,強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪は,不同意わいせつ罪に一本化されています。
暴行脅迫の要件が必ずしも必要なく、不同意といえる状況での性交渉は、不同意わいせつ罪が適用されることになりました。
2 同意なしの性行為は、相手からの慰謝料請求もあり得る
お互いの同意で行われた性行為に対しては、未婚同士であっても慰謝料の請求はできません。
しかし、同意なしで性行為に及んだ場合は個人の貞操権を侵害したとみなされ、被害者は強制的に性行為に及んだ相手に慰謝料を請求が可能です。
ただし、慰謝料とは特定の原因によって肉体的・心身的にダメージを受けた時に請求できるものであり、被害者はそれを証明できないと基本的に請求は認められません。
同意なしで性行為を行い、相手を傷付けた自覚があれば、慰謝料の支払いに応じるべきでしょう。
他方で、お互いお酒で酔っていて、正常な判断ができないまま成り行きで性行為をしたなど濡れ衣をかけられている可能性がある場合は、支払ってしまうとあらぬ疑いを認めたことになってしまいますので注意が必要です。
以前はこのような場合では、犯罪が成立することはなかったのですが、
酒に酔って正常な判断ができないまま成り行きで性行為をした場合でも、
不同意性交等罪や不同意わいせつ罪のもとでは、
「三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響がある」状態で、
「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は」
または、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は」
というように、それぞれ、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が、成立する可能性があります。
そのため、これらの犯罪が成立するような場合には、慰謝料も発生するのが通常です。
しかし、同意があったのに、性行為をしたことを理由に慰謝料を請求された場合は、まず弁護士に相談して対応した方が良いです。
3 不同意性交等罪で逮捕されたり、起訴されて刑事裁判になった時の対処法
強姦罪は被害者が処罰を求めないと刑事事件として捜査をしてもらえませんでした。
しかし、2017年の改正により被害者が処罰を告訴しなくても、検察官が起訴することも可能となりました。
ただし、暴行脅迫の要件が必要であるという問題点がありました。
そこで、暴行脅迫の要件が必ずしも満たさなくとも、同意がないといえるような状況であれば、不同意性交等罪が適用されるように法改正がされました。
同意なしで性行為に及んだとして起訴された場合、示談で刑を軽くしてもらったり、冤罪ならば無実の証明が必要になったりします。
性行為により被害者や検察官から起訴された場合の対処法を見ていきましょう。
⑴まずは同意の有無を事実関係や証拠から確認する
16歳以上の被害者の場合、その相手から同意があれば不同意性交等罪には当たりません。
また、同意があったと誤って認識していた場合は故意な行為とみなされないので、この場合も罪に問われません。
被害者との同意や被告人の誤信も、性交渉の場面を録音でもしない限り、内心的な問題なので客観的な証拠は存在しないはずです。
そのため、双方の年齢や関係性、過去の性行為、性行為をした経緯、場所、時間、性行為後の相手への対応などの事実から、同意の有無や被害者の認識を確認していく必要があります。
双方の年齢や関係性は、客観的な証拠をもって示せるでしょうし、過去の性行為や性行為をした経緯については、メッセージやラインのやり取りなどの証拠で示せるでしょう。性交渉の場所や時間、性行為後の相手への対応などについては、グーグルのタイムラインやメッセージ、ラインのやりとりで示せるでしょう。
普段からの関係性や性交渉前後のメッセージのやりとりは特に重要だと考えられます。
また、性交渉に及んだ場所が、ラブホテルのような性交渉を目的とする場所か、そうでないのかによっても同意の有無の判断は異なります。
このように、同意がなかった,あるいは同意があったという事実や証拠をどれだけ提示できるかどうかで、罪が問われるかどうかが決まります。
密室でのトラブルなので、事実を証言できるのは基本的に当事者同士です。
相手から同意があった、または同意があったと誤認していた場合は、弁護人に前後の状況を細かく報告しましょう。
⑵同意があると誤信したものと推認しうるケース
加害者が性交渉の同意があると誤信したものと推認しうるケースとして次のものが挙げられます。
①恋人関係・パートナー関係である
恋人同士でも性行為に同意がない場合は不同意性交等罪が適用されます。
しかし、恋人関係でさらに相手も抵抗しなかった場合は、同意がなくても加害者が同意ありと思っても仕方がないと判断され、誤信したことが推認される可能性があるでしょう。
②ラブホテルに行くことに同意した
ラブホテルに行っただけで同意があったと直ちには認められるわけではありませんが、ラブホテルは性交渉をする場所であると一般的に認知されています。
そのため、ラブホテルに行くことに同意した、つまり一緒にラブホテルに入っただけでも、同意があったと判断される可能性はあります。
ただし、ラブホテルに連れていかれても、そこで性行為を拒否したり、抵抗したりすれば同意がなかったと判断されるでしょう。
しかし、ラブホテルに行くことに同意し、また抵抗もしない状態であれば、被告人が同意ありと判断するのは無理もないので、仮に真実は同意がなかったとしても、同意があると誤信したものとして、不同意性交等罪の故意が認められず、犯罪が成立しない可能性があります。
③抵抗されなかった
被害者が抵抗しない理由には、恐怖心やパニックから抵抗できないというケースも多いです。
そして、このような場合も不同意性交等罪はカバーしています。
例えば、
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
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といった場合には、抵抗できなくても仕方がないという発想のもとで、不同意性交等罪が成立する可能性があります。
ただし、これらに該当しない程度の恐怖やパニック(驚愕)などについては、抵抗できる状態であると考えられる状況であるのに、抵抗されなければ、同意があると誤信したものとして、不同意性交等罪の故意が認められず、犯罪が成立しない可能性があります。
ただし、そもそも本当に抵抗できる状態であると考えてよいのかどうかについては十分に注意する必要があるでしょう。
⑶被害者と示談する
不同意性交等罪は、罰金刑がなく、法定刑が五年以上の有期拘禁刑、だけとなっています。
そのため、有罪となると執行猶予がつかないと刑務所に入らなければなりません。
刑務所入りを避けるためには、被害者との示談が重要です。
執行猶予がつくかどうかは、様々な事情を加味した上で裁判官が判断を下します。
その際、被害者との示談が成立していると、慰謝料の支払いで被害者のダメージがされ、処罰の感情が減ったと考えられ、その事情が配慮されて刑罰が軽くなる可能性が高いです。
ただし、性被害を受けた人やその家族は被告者と会うことに拒絶するケースがあり、示談に持ち込むのは難しいケースもあります。
被告人本人はもちろん、家族や友人などが示談を訴えても応じてもらえない可能性が高いでしょう。
被害者と示談したい場合は、弁護士から対応してもらうと平和的な解決に望めます。
できれば起訴自体を回避した方が良いので、捜査が行われている段階から弁護士に相談し、示談交渉を行ってもらうことをおすすめします。
4 まとめ
相手方の同意がないまま及ぶ性行為は、不同意性交等罪という重い犯罪と認識する必要があります。
ただ、自分が一方的に同意したと勘違いし、後から無理やり体の関係を持たされたと訴えられてしまうケースも多いです。
そのため、酔っぱらった状態での性行為や相手の意思をしっかり確認しないままに性行為をしてしまうのはトラブルの原因となるので避けた方が良いです。
もし相手方に性行為をしたことで起訴や慰謝料を請求された場合、示談を成立させるためにも速やかに弁護士に相談し、対応してもらうようにしましょう。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。