保釈が認められた場合の流れ
保釈が認められると、刑事裁判が始まるまでの間、被告人は身柄を解放されてこれまでと変わらない生活を送れます。保釈を得るためには、保釈請求書や保釈金など事前に準備が必要なものもあります。この記事では、保釈前後を流れについて具体的にご説明します。
目次
1 保釈が認められるまでの流れ
起訴をされると、裁判までの間被告人を保釈するように請求することができます。起訴は、以下の流れで保釈の手続きが進められていきます。
⑴保釈請求書の準備・提出をする
⑵保釈後の段取りを決めておく ⑶裁判官によって保釈の可否が判断される ⑷(保釈が却下されたら)不服申し立てをする |
⑴保釈請求書の準備・提出をする
保釈を得るためには、起訴された後に保釈請求書を裁判所に提出する必要があります。起訴が決まりそうな案件では、起訴される前から保釈請求書を作成しておくとスムーズに保釈を得やすくなります。
基本的に、特別な理由がなければ保釈は認められます。
逮捕後の身柄拘束は、捜査が終了するまでの間、被疑者の証拠隠滅や逃亡を防ぐために行われるものなのですが、起訴をされた段階では捜査が終了しています。そのため、被告人の身柄を拘束する必要性は少なくなります。
ただ、保釈請求をすれば必ず保釈される訳ではありません。次の除外事由に当てはまるような事件の場合、裁判官によって保釈が却下される恐れがあります。
・死刑・無期・1年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した
・上記犯罪の前科がある ・被告人が常習的に3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した ・証拠隠滅や逃亡の恐れがある ・被害者に仕返しをする恐れがある ・被告人の氏名や住所が不明である (参照:刑事訴訟法89条・90条) |
保釈請求書には、被告人が上記の除外事由に該当しないことや、該当する場合であっても裁判官の裁量で釈放をしてもらえるよう、被告人を取り巻く状況や環境などについて記載します。
⑵保釈後の段取りを決めておく
裁判官によって保釈が認められるとすぐに被告人の身柄が解放されることがあるため、事前に以下のように段取りを決めておきまししょう。
・家族が迎えに行くのか
・どこで待ち合わせをするのか ・衣服や交通費など、必要なものはあるか ・身元引受人は確保できているか ・保釈金の用意はできているか |
保釈を認めてもらうためには、身元引受人が必要です。身元引受人は裁判まで判決が下されるまでの間被告人を管理監督する役割があり、大抵の場合はご家族の方が身元引受人になります。
また、保釈金は金額が高額であるため、早めに用意をしておいた方がいいかもしれません。保釈金の相場は事案によって様々ですが、おおむね150万円〜200万円程度です。保釈金を用意するのが難しい場合は弁護士にその旨を伝え、できるだけ低い金額の保釈金で保釈をしてもらえるよう、裁判官に伝えてもらいましょう。
「保釈金は戻ってくるのだろうか?」と思う方もいるかと思いますので、ここで少し保釈金について補足しておきます。結論からお伝えすると、基本的に保釈金は戻ってきます。
保釈金は被告人が証拠隠滅や逃亡をするのを防ぐためのものでもあります。したがって、裁判が終わるまでに証拠隠滅や逃亡をする、正当な理由なく裁判に出頭しないということがあれば、保釈金は没収されます。
⑶裁判官によって保釈の可否が判断される
保釈請求をされた裁判官は、検察官に意見をもらい保釈をしてもいいかどうか判断します。検察は保釈をするべきか否か意見を出しますが、あくまで最終的な決定権は裁判官が持ちます。
⑷(保釈が却下されたら)不服申し立てをする
重大事件の場合や被告人に証拠隠滅・逃亡の恐れがあると裁判官に判断されたような場合には、保釈請求が却下されることがあります。
裁判官の決定に対して、弁護士は準抗告や特別抗告という不服申し立てを行います。また、保釈請求が却下された後に被害者と示談交渉で和解を得た場合などは、再度保釈請求を行うこともあります。和解をしたということは、加害者に反省する気持ちがあり証拠隠滅や逃亡の可能性は低いと判断してもらえることがあります。
2 保釈が認められてからの流れ
保釈が認められた後は速やかに保釈金を納付し、速やかに被告人の身柄を解放します。また、保釈金の納付と並行して弁護士は刑事裁判に向けていくつかの準備を行います。ここでは、保釈が認められた後の流れについて確認していきましょう。
⑴保釈金を納付する
保釈が認められたら保釈金を納付することになります。被告人が釈放されるのは保釈金が納付されてからになるので、できるだけすぐに対応できるようにしておきましょう。ご家族の方などが裁判所に保釈金を納めることもできますが、弁護士に代理で納付してもらうこともできます。スムーズに釈放をするためには、事前に弁護士に保釈金を預けておくのが普通です。
⑵身柄が解放される
保釈期間中は、裁判所に決められた条件を守っている限り、基本的に普段通りの生活をしても問題はありません。
保釈の条件とは例えば…
・あらかじめ決められた住居に住むこと
・証拠隠滅や逃亡をしないこと ・裁判所から出頭の要請があったら応じること ・事件の関係者や被害者と接触しないこと |
上記のように裁判所に命じられた条件を守っていれば、普段通りに仕事をしたり、遊びに行ったりしても構いません。
⑶再び身柄を拘束されることもある
一度保釈をされても、再び身柄を拘束されることがあります。裁判官の保釈許可に対し、検察が不服申し立てをすると、裁判官が決定を下すまでの間保釈が停止します(保釈の執行停止)。
また、被告人に証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断されれば、一度下した保釈の決定が取り消されることもあります。身柄を拘束されるだけでなく刑事裁判での情状も悪くなるので、保釈期間中は問題を起こさずに過ごすことが重要です。
⑷刑事裁判の準備をする
保釈請求をしつつ、弁護士は刑事裁判の準備を行います。被告人が容疑を認めていない(否認事件)の場合と、認めている(自白事件)場合では、弁護活動の内容が異なってきます。
①否認事件での弁護活動
容疑を否認している場合は、無罪が得られるように証人尋問の準備をします。刑事裁判では、検察官が被告人が有罪であることを証明するために、裁判所に事件の被害者や目的者に対して証人尋問を行います。この時、弁護士は被害者や目的者に対して反対尋問を行い、証言の内容に誤りがないか追及します。他にも、犯行を犯していない証拠を集めるといった活動をします。
②自白事件での弁護活動
容疑を認めている場合は、執行猶予や減刑を得られるよう被告人の情状がよくなるような証拠を集めます。具体的には、被害者との示談書、反省文、医師による意見書、周囲の人間が管理監督をする旨の誓約書などを提出し、被告人を刑務所に収監しなくても、更生していける目処があることを伝えます。
⑸刑事裁判
起訴後から1ヶ月半程度経つと、刑事裁判が行われます。証拠の取り調べや被告人質問、証人尋問などが行われ、おおよそ1時間程度で審理が終わります。最後に裁判官によって判決が言い渡されるのですが、不満がある場合は高等裁判所に控訴することもできます。
3 まとめ
起訴される可能性が高い事案では、あらかじめ保釈請求書や保釈金の準備を行うことでスムーズな保釈を目指します。
また、保釈が認められた後は、自白事件であれば被告人の情状が良くなる証拠を、否認事件であれば被告人が犯行を犯していない証拠を集め、刑事裁判に備えます。刑事裁判での判決によって今後の人生が大きく変わるといっても過言ではないので、ぜひ信頼できる弁護士を見つけて刑事弁護を依頼してください。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。