死刑の基準とは
数ある刑罰の中でも「死刑」は最も重いものです。
死刑になる可能性のある犯罪は相当限定されていますし、死刑が法定刑とされていても、適用されるケースは少ないです。
具体的に、どういったケースで「死刑」が選択されているのでしょうか?
今回は、死刑になる基準について、ご説明します。
目次
1 死刑になる可能性のある犯罪
まずは、死刑になる可能性のある犯罪の代表例を挙げます。
⑴殺人罪(刑法199条)
人を故意に殺すと「死刑又は無期懲役もしくは3年以上の懲役刑」となります。
⑵現住建造物等放火罪(刑法108条)
人が中にいるのに建物や乗り物に火をつけて燃やすと、現住建造物等放火罪となります。
この場合、「死刑又は無期懲役もしくは5年以上の懲役刑」となります。
一般的に、放火によって死亡者が生じた場合に、死刑を適用しうると考えられています。
⑶強盗致死罪・強盗殺人罪(刑法240条後段)
強盗行為をして人を殺害したり死なせてしまったりした場合、「死刑又は無期懲役刑」となります。
⑷強盗強姦致死罪(刑法241条)
強盗に入って被害者を強姦した結果、死なせてしまった場合の犯罪です。刑罰は「死刑又は無期懲役」です。
その他、以下のようなケースでも、死刑が適用される可能性があります。
• 組織的な殺人罪(組織的犯罪処罰法3条、刑法199条) • 人質殺害罪(人質強要行為処罰法4条) • 内乱罪(刑法77条1項) • 外患誘致罪(刑法81条) • 外患援助罪(刑法82条) • 航空機強取等致死罪(ハイジャック防止法2条) • 爆発物使用罪 (爆発物取締罰則1条) |
2 死刑の選択基準
以上のように、死刑が適用される可能性のある犯罪はいくつかありますが、必ずしも死刑が選択されるとは限りません。
実際に死刑が適用されるかどうかについては、以下のような要素を踏まえて検討されます。
・犯罪の性質
・犯行の動機 ・犯行態様(殺害方法の執拗性や残虐性) ・結果の重大性(殺害された被害者の数) ・遺族の被害感情 ・事件の社会的影響 ・犯人の年齢 ・犯人の前科 ・犯行後の情状 |
この基準が示されたのは、永山判決と呼ばれる事件です(最高裁1983年7月8日)。
永山事件では、犯人が4人を殺害し、死刑が選択されました。
それ以後には、上記の基準によって死刑制度が運用され、基本的に被害者が複数のケースで死刑が選択されてきました。
しかし、最近では厳罰化の傾向があり、その傾向が変わりつつあります。
たとえ殺害した被害者が1人であっても、殺害方法が計画的でかつ残虐なケースなどの場合には、死刑判決が出ることもあります。
たとえば、2007年の「闇サイト殺人事件」では、犯人が、携帯サイトで知り合った人と共謀して女性を拉致して殺害し、強盗殺人などの罪に問われました。
この事件で名古屋地裁は死刑判決を下し、被告人は、いったんは控訴しましたが、取り下げによって死刑が確定しています。
3 裁判員裁判制度と死刑判決
近年では、裁判員裁判制度が導入されました。
裁判員裁判制度とは、一般国民の中から選ばれた裁判員が裁判官とともに刑事裁判に参加する制度です。
この制度は、アメリカで導入されている陪審員制と違い、有罪無罪の判断だけでなく量刑の判断も行います。
つまり、裁判員裁判で死刑判決が出る可能性があるのです。
実際、2016年、入所者と職員ら45人を殺傷した「津久井やまゆり園事件」では、裁判員裁判で死刑判決が下され、被告人は控訴せずに死刑が確定しています。
裁判員裁判が行われるのは一審だけで、控訴審や上告審では裁判官のみで審理が行われます。
一審は尊重されますが、覆されることももちろんあります。
不当な量刑が科せられることがあってはならない一方で、裁判員裁判の意味がないとの批判もあり、今後の制度の在り方が問われています。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。