いじめは傷害罪になる?逮捕の可能性と対策
1 はじめに
学校でのいじめは、以前から問題となっていますが、多くは学校の中で処理されて一般に事件として扱われることは多くありません。
また一般社会であれば犯罪にあたる行為が、学校の中では犯罪にならないのは納得できないと思われます。
以下では、どのようないじめが犯罪にあたるのか、犯罪にあたる場合にどのような対策をとることができるのか解説していきます。
2 いじめとは
平成25年9月28日、いじめ防止対策推進法が成立しました。
同法では、いじめを、児童生徒に対して,当該児童生徒が在籍する学校(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校)に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものと定義しています。
同法では,学校や行政のいじめの対処方法を明確にし,重大事件への対処の指針を示しています。
3 いじめで成立しうる犯罪
いじめで成立しうる犯罪として以下のものが考えられます。
(1)暴行罪(刑法208条),傷害罪(同法204条)
人を殴ったり,蹴ったり,煙草を体に押し付けるなどのいじめがなされた場合には,暴行罪や傷害罪が成立します。また,言葉の暴力により人をPTSDなどの精神的な傷害を負わせた場合には,傷害罪が成立します。
(2)傷害致死罪(同法205条)
暴行によるいじめで人を死なせてしまった場合には,傷害致死罪が成立します。
(3)殺人罪(同法199条)
いじめの態様が人を死なせるほど悪質だった場合には,殺人罪が成立する可能性があります。
(4)自殺教唆罪(同法202条)
相手に「屋上から飛び降りろ」等と言って自殺を促した場合には,自殺教唆罪が成立する可能性があります。
(5)脅迫罪(同法222条)
脅したり,殴るそぶりなどをして,人を怖がらせた場合には,脅迫罪が成立する可能性があります。
(6)強要罪(同法223条)
人が嫌がっていることや,危険なことをさせた場合には,強要罪が成立する可能性があります。
(7)逮捕監禁罪(同法220条)
縄などで縛ったり,部屋に閉じ込めた場合には,逮捕罪又は監禁罪が成立する可能性があります。
(8)不同意性交等罪(同法177条),不同意わいせつ罪(同法176条)
相手が嫌がったり、同意していないにもかかわらずわいせつな行為をしたり,性行為をした場合には,
不同意性交等罪(同法177条),不同意わいせつ罪(同法176条)が成立する可能性があります。
これらの罪は、強制性交罪、強制わいせつ罪が法改正されて定められたものになります。
参考:証拠がない?相手方の同意なしでの性行為は不同意性交等罪に
(9)名誉棄損罪(同法230条),侮辱罪(同法231条)
多くの人が聞こえるような場所で、悪口をいった場合には名誉棄損罪や侮辱罪が成立する可能性があります。
また、インターネットの掲示板やSNSなどで悪口を書き込んだ場合も、名誉棄損罪や侮辱罪が成立する可能性があります。
悪口が事実を示してなされた場合には名誉棄損罪が成立しますし、事実を示さずに悪口をいった場合には侮辱罪が成立します。
参考:【早わかり】侮辱罪の厳罰化!どう変わった?罪に問われたらどうするべき?
(10)強盗罪(同法238条),恐喝罪(同法247条)
暴行や脅迫により、お金を取り上げる場合には、恐喝罪と強盗罪が成立する可能性があります。
暴行や脅迫が相手の犯行を抑圧する程度であれば強盗罪が成立しますし、それに至らない場合には恐喝罪が成立します。
(11)窃盗罪(同法235条)
相手の物を盗んだ場合には、窃盗罪が成立します。
(12)器物損壊罪
相手の物を壊したり、修復が困難なほどに汚したりした場合や、相手の物を隠したりした場合には器物損壊罪が成立します。
4 犯罪にはならない可能性のあるいじめ
一方で、次のような態様のいじめは犯罪にあたらない可能性があります。
(1)無視をする
(2)一緒に活動することを拒否する
(3)遠くから相手を笑う
これらの行為は、犯罪が成立しない可能性がありますが、不法行為に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。
5 いじめが犯罪にあたる場合の対策
一般社会では、犯罪の嫌疑があれば逮捕される可能性があります。一方で,学校内のいじめも同様にいじめに犯罪の嫌疑があるのであれば逮捕の可能性があります。そのため,いじめられており,それが犯罪にあたると思われた場合には,警察に相談・通報することでいじめの対策をとることができます。
もっとも,逮捕後の手続きについては,成人の場合と未成年の場合で異なります。
成人の場合には逮捕された場合,検察で起訴・不起訴の判断がなされ,起訴の場合には裁判所で有罪・無罪の判断がされることになります。
一方、学校内のいじめは未成年者が行うものであるので、少年法に基づく手続が取られることになります。少年法に基づく手続では、刑事裁判ではなく少年審判という手続がとられます。
少年審判では,行為の程度などにより①不処分、②保護観察処分、③少年院送致、④児童自立支援施設送致などの判断がなされます。
なお,いじめが刑罰を科すのに相当な場合には検察官に送致され,通常の刑事手続がとられることがあります。
6 おわりに
いじめが犯罪にあたる場合には、逮捕されることがあります。
もし、どんなにいじめをしてもそれが犯罪にはならない,と思われている方は,考えを改めていただいた方が良いと思います。
法律事務所ロイヤーズ・ハイではいじめの事件,少年事件について経験豊富な弁護士が在籍しています。
いじめによりお困りの方は,一度,当事務所に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。