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窃盗罪と横領罪との分かれ目と実際の判例、占有の侵害、刑罰の重さの違い

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刑事裁判では、窃盗罪と横領罪との分かれ目が争われることがあります。
両者の違いは、盗まれた財物が被害者の所有・支配(占有)していたかどうか、によります。
この占有の有無が刑事裁判で争われることになります。
当コラムでは、窃盗罪と横領罪との分かれ目について、用語の定義や実際の判例を踏まえつつ解説していきます。

 

1 窃盗罪と横領罪との分かれ目は、占有の侵害があるかどうか

・占有の侵害がある→窃盗罪

・占有の侵害がない→横領罪

 

占有とは、何かを支配または管理している状態のことを指します。直接手に持っている必要はありません。
たとえば、家の中にある高価な腕時計は、身に着けていなくても管理や支配があるとされ、占有が認められます。

 

占有の侵害とは、この支配、管理を難しくする状態を言います。先程の高価な腕時計を、あとで売却するつもりで、所有者が見つけられないように、もとの位置からその家の天井裏に隠した場合、所有者が管理や支配することが難しくなっていると言えるため、占有の侵害があります。

 

占有の侵害がある場合は、窃盗罪が成立します。
スリや空き巣のように盗まれたものが被害者の管理下にあるような場合を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。

 

一方で、占有の侵害がない場合は横領罪が成立します。
会社の商品を無断で転売した場合、落とし物のバックを自分のものにした場合などは、横領罪に問われる可能性があるでしょう。

 

2 窃盗罪・横領罪の定義

ここまでで窃盗罪と横領罪との分かれ目を大まかに解説しましたが、横領罪には種類が3つあるので、それぞれ窃盗罪との分かれ目が異なってきます。
詳細な説明に入る前に、刑法における窃盗罪と横領罪の定義を確認していきましょう。

 

⑴窃盗罪の定義

第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用:刑法235条

 

ここでの他人の財物とは、事実上他人の支配・管理下にあるものを指します。
窃取とは、本人の意思に反して財物の占有が移ることをいいます。
また条文にはないのですが、判例によると、窃盗罪や横領罪が成立するには不正領得の意思が必要であるとされています。
昭和28(あ)3784 窃盗被告事件

 

不正領得の意思とは、自分の利益のために、他人のものを奪って利用したり、処分したりしようとする意思のことをいいます。
なお、広島高等裁判所の判例では、不正領得の意思を次のように定義しています。

不正領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいうのである。

引用:昭和28(あ)3784

関連記事:窃盗罪

 

⑵横領罪の定義

横領罪には、横領罪(単純横領罪)・業務上横領罪・逸失物等横領罪の3種類があります。
それぞれの条文を見ていきましょう。

 

①横領罪(単純横領罪)

第二百五十二条自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

引用:刑法235条

 

基本的な横領罪で、単純横領罪ともいわれます。
他人から預かっていた現金を自分のために使った場合に成立する罪で、業務上行われたことであれば業務上横領罪、他人の占有を離れた財物を使ったり処分したりした場合は逸失物等横領罪が成立します。

 

②業務上横領罪

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

引用:刑法253条

 

文字どおり、業務上で横領をした場合は業務上横領に問われることがあり、単純横領罪よりも重い罰則が科されます。
経理が自社のお金を不法に使い込んだ場合などがこれに当たりますが、複数回にわたって犯行が繰り返され、被害額が100万円を超えるケースも少なくありません。

 

③逸失物等横領罪(占有離脱物横領罪)

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

引用:刑法254条

 

『占有を離れた』という点で、他の横領罪とは異なっています。
占有を離れた他人のものとは、例えばわすれものや貰いすぎたお釣りなどです。
わすれものを交番に届けようと思って手に取ったケースなどでは、不正領得の意思があるとは言い切れないので、逸失物等横領罪は成立しません。

関連記事:横領で事件になった場合、示談交渉については弁護士に相談

 

3 窃盗罪と各横領罪との分かれ目とは

上記を踏まえて、窃盗罪とそれぞれの横領罪との分かれ目を説明します。

 

⑴窃盗罪と単純横領罪・業務上横領罪との分かれ目

『委託信任関係の有無』が両者の分かれ目となります。
委託信任関係とは、ある人が別の人に、自身の物を信じて預けている関係のことをいいます。
委託信任関係がなく、他人の占有にある財物を自分のものにした場合は窃盗罪。
委託信任関係があり、自分の占有にある他人の財物を自分のものにした場合は横領罪となります。

 

⑵窃盗罪と逸失物等横領罪との分かれ目

『占有が認められるかどうか』が両者の分かれ目となります。
置き引きで逮捕・起訴された場合などは、裁判にて窃盗罪にあたるのか、逸失物等横領罪にあたるのかが判断されることがあります。

 

4 なぜ、窃盗罪と横領罪との分かれ目が重要なのか?

窃盗罪と横領罪とでは、刑罰の重さが違うためです。
置き引きをした場合、
逸失物等横領罪であれば罰則は1年以下の懲役または10万円以下の罰金にとどまりますが、窃盗罪に問われた場合は10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

 

加害者側としては、逸失物等横領罪になった方が罰則が軽いため、裁判ではどちらの罪が成立するかが争点になることがあります。
この場合、盗んだものが逸失物に当たるかどうかが争われるわけですが、どこからが逸失物等とみなされるのか明確な基準はなく、ケースバイケースということになります。

関連記事:置き引きした場合の窃盗罪と落とし物などの遺失物等横領(遺失物横領)罪(占有離脱物横領罪)の違いとは?

 

5 窃盗罪が成立するか、逸失物等横領罪が成立するかが争われた判例

ではここで、自転車盗で窃盗罪が成立した判例と、逸失物等横領罪が成立した判例をそれぞれ見ていきましょう。

 

⑴公道に置かれていた自転車を盗み、窃盗罪となった判例

写真材料店の店主が、自転車を屋内に入れ忘れて戸締りをしてしまい、店に隣接する公道におきっぱなしになっていた自転車が盗まれたという判例です。
公道に置きっぱなしになっていたものの、店に隣接する公道であったという状況から判断して、自転車が写真材料店のものであると推測するのが自然であるため、自転車は逸失物には該当しないと判断され、窃盗罪が適当であるとの判決が下されました。
参照:昭和30(う)95占有離脱物横領又は窃盗被告事件

 

⑵自転車盗で逸失物等横領罪が成立した判例

自転車を盗んだのではなく拾ったものであると主張し、逸失物等横領罪が成立した判例です。
飲食店で飲酒をした被害者が、自転車を押して帰路に着く最中に知人と口論をし、そのまま道路付近に自転車を置き忘れたままその場を立ち去ってしまいました。

 

酩酊していた被害者は自転車をどこに忘れたのかがわからなかったため、届け出をするために交番に行きましたが、「酔っているからその辺にあるだろう」と相手にされず、そのまま帰路につきました。

 

その後、道端に倒れている自転車を発見した被告人が、交番に届けることなく、自転車に乗ってその場を立ち去ったという事件なのですが、被害者が口論をして自転車を置き忘れた時に、自転車が被害者の支配を事実上離れたとされたため、逸失物等横領罪の構成を満たすとされました。
参照:昭和36(う)1112窃盗被告事件

上記2つの判例からは、自転車が置いてあった場所や状況などから、自転車が逸失物に当たるかどうかが議論された様子が伺えます。

関連記事:横領で事件になった場合、示談交渉については弁護士に相談

 

6 まとめ

窃盗罪と横領罪との分かれ目は、奪われた財物が被害者の占有にあったかどうかであり、この占有の有無が刑事裁判で争われることになります。
窃盗罪よりも横領罪の方が、罰則が軽微であるため、加害者側の人間にとっては、どちらの罪に問われるかが重要なポイントになってきます。

関連記事:背任罪と横領罪~違いと逮捕後の流れ

このコラムの監修者

  • 田中今日太弁護士
  • 弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

    田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録

    弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。

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