過失運転致傷罪と危険運転致傷罪の違いとは?
目次
1 はじめに
自動車は便利な乗り物でありながら、運転を誤ると甚大な被害を招く危険を秘めた乗り物です。そのため、運転手に高い注意義務を課すため、やや特殊な扱いになっています。具体的には「過失運転致死傷罪」と「危険運転致死傷罪」という2つの犯罪類型が設けられているのです。今回は、この2つの犯罪の致傷部分に関して、その違いに着目しながら解説します。
2 過失運転致傷罪と危険運転致傷罪はどんな罪なのか?
まず、この2つの罪について、具体的に見ていきましょう。
⑴過失運転致傷罪
過失運転致傷罪及び危険運転致傷罪は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称:自動車運転処罰法)に規定されています。かつて交通事故の加害者には刑法第211条の2の自動車運転過失致死傷罪が適用されていましたが、重罰化の影響によって別途法律が設けられたのです。
自動車運転処罰法 5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。 |
不注意な運転によって、人に怪我をさせた場合には過失運転致傷罪が成立する可能性があります。もっとも、人損事故の加害者が全員刑事罰に問われるわけではありません。怪我人を放置して逃げ出すと罪が重くなるので、事故を起こしたときには怪我人を救護し、警察を呼ぶようにしてください。
道路交通法 72条1項 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。 |
⑵危険運転致傷罪
飲酒運転や信号無視などのうち、特に悪質なケースでは、過失運転致傷罪ではなく危険運転致傷罪が成立することがあります。どのような場合に危険運転致傷罪が成立するかについては、自動車運転処罰法2条に規定されています。
自動車運転処罰法 2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。 一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為 二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為 三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為 四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 六 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 |
罪刑法定主義の観点から、この条文に該当しない限り、危険運転致傷罪で処罰されることはありません。やや極端な例ですが、赤信号を無視して歩行者に怪我を負わせたとしても、信号を無視するつもりでなければ危険運転致傷罪は成立しません。ただし、信号を守る気がもともとない場合には、危険運転致傷罪が成立するとされています(最高裁平成20年10月16日決定刑集62巻9号2797頁)。
3 過失運転致傷罪と危険運転致傷罪の明確な違いは?
まず刑罰の重さが違います。
過失運転致傷罪が7年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金であるのに対し、危険運転致傷罪では、15年の懲役刑が科されることがあります。また、前者では刑が免除される可能性があるのに対し、後者ではその規定はありません。これは前者が過失犯であり、後者が故意犯、その中でも特に悪質なケースを取り締まるものだからです。
4 過失運転致傷罪や危険運転致傷罪で逮捕されるとどうなる?
過失運転致傷罪では懲役刑が設けられていますが、ほとんどのケースが執行猶予で終わっています。ただし、ケガの重さに応じて、8カ月から1年6カ月の禁固刑が科せられる例が多くみられます。また、数週間の治療で済む怪我で示談もできている場合には、略式命令となり30万円から50万円の罰金で済むこともあります。
危険運転致傷罪でも、約8割のケースでは執行猶予で済んでいます。しかし、もともと重罰化の影響で設けられた罪なので、今後実刑となるケースが増えていく可能性はあるでしょう。
過失運転致傷罪や危険運転致傷罪では、被害者と示談が成立しているかが量刑に大きな影響を与えます。そのため示談はぜひとも行うべきですが、加害者が自ら示談交渉するのはおすすめしません。なぜなら、被害者の感情をかえって逆撫でしてしまうこともあるからです。示談交渉は、法律のプロである弁護士に任せたほうが、間違いなくスムーズに進むでしょう。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。