背任罪と横領罪~違いと逮捕後の流れ
会社のお金を出来心で使い込んだ、ライバル会社の社員に顧客情報を漏らして会社に損害を与えた……。
このような行為をしてしまった場合、横領罪や背任罪といった罪に問われる可能性があります。
横領罪や背任罪には共通点こそあるもののまったく違う犯罪であり、判決時の量刑にも大きな違いが見られます。
そこで横領罪と背任罪はどう違うのか、どんな刑罰を受けることになるのかなどについて解説します。
目次
1 背任罪とはどんな罪なのか?
背任罪については、刑法247条に規定があります。
背任罪(刑法247条) 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 |
このように事務を任された人が、利益や損害を目的として任務に背き、相手側に金銭的な損害を与えると背任罪が成立します。
具体的な例としては、パワハラの腹いせに会社の機密情報を外部に漏らす、銀行などで十分な担保がないのに融資をする不正貸付行為といったものが挙げられます。
2 横領罪とはどんな罪なのか?
一方、横領罪については刑法252~254条に規定があります。
単純横領罪(刑法252条) 1.自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。 2.自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。 |
業務上横領罪(刑法253条) 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。 |
遺失物等横領罪(刑法254条) 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 |
単純横領罪の場合は他人から預かったものを、業務上横領罪の場合には仕事など業務上の理由から他人から預かったものを、勝手に自分のものにしてしまった場合に犯罪が成立します。新聞の集金を担当している人が、集金したお金を横領してしまったケースなどが典型例です。
一方、落とし物や忘れ物のように持ち主の手から離れている状態のものを横領した場合には、遺失物等横領罪が成立します。
関連記事:置き引きした場合の窃盗罪と落とし物などの遺失物等横領罪(遺失物横領罪・占有離脱物横領罪)の違いとは?
3 横領と背任の違いは?
特に背任罪と業務上横領罪については共通点が多く、いずれも信任関係に背く罪です。
ただし、完全に重なり合うものではなく、明確な違いもあります。
背任罪と業務上横領罪を分けるポイントは「不法領得の意思」の有無だとされています。
横領罪が成立するには「不法領得の意思」といって、他人のものを自分のものとして利用・処分するという意思が必要です。
背任罪と業務上横領罪の区別が問題となるケースには、以下のようなものがあります。
①従業員が社用車を借りて使用していたが、自己の借金の返済に充てるために、社用車を無断で売却した。
②会社の顧客データを他社に売り渡した。 ③会社のお金で勝手に高価な絵画を購入した。 |
①の場合、従業員は、単に車を会社から借りているにすぎず、他人のためにその事務を処理する者とは言えないので、背任罪ではなく、業務上横領罪が成立します。
②の場合、データそのものは金銭と違って財物とみなされません。よって、財物が対象となる業務上横領罪成立の余地はなく、背任罪が成立する可能性があります。
③経理担当者が会社のお金を勝手に使って高価な絵画を買い、その絵画を着服するのであれば横領罪が成立します。
一方、会社の経営状態に悪影響を与える目的で絵画を買い、会社に飾っておいた場合には横領罪は成立しません。
ちなみに判例では、横領罪と背任罪どちらも成立しそうな場合には、横領罪だけが成立すると考えています。
4 逮捕されたらどんな刑罰を受けることになるのか?
もし背任罪や横領罪で逮捕されてしまった場合、どのような刑罰を受ける可能性があるのでしょうか。
⑴背任罪の刑罰
背任罪の法定刑については、5年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。
実際の判例では、経済的な損害に比例して量刑が重くなり、実刑になる確率も高くなる傾向が見られます。
⑵横領罪の刑罰
横領罪の法定刑は背任罪より重く、単純横領罪で5年以下の懲役、業務上横領罪で10年以下の懲役となっています。実際の裁判例では約7割近い確率で懲役刑が課されています。
一方、遺失物等横領罪については、1年以下の懲役または10万円の罰金刑となっています。
関連記事:横領で事件になった場合、示談交渉については弁護士に相談
5 逮捕されそうになったらどうすればいいのか?
もし背任罪や横領罪で逮捕されてしまいそうになったら、どうすればよいのでしょうか。
本人が罪を認めている場合、無罪を主張する場合とで分けて説明します。
⑴罪を認めている場合
本人が罪を認めている場合には、すみやかに被害者に謝罪・弁償を行い、逮捕・起訴前に示談に持ち込むことが重要です。
背任罪・横領罪は、しばしば対外的な信用を重んじる会社組織などで発生します。
そのため「経済的な損失が回復できれば表沙汰にしたくない」と考える被害者も多いのです。
警察が介入してくる前に被害者との話し合いが成立すれば逮捕されてしまうこともありません。
また、逮捕されてしまったとしても、被害者との示談が成立すれば不起訴処分になる可能性も高くなります。
ただし不用意な被害者側との接触には、相手の感情を逆なでしてしまうおそれもあります。実際の交渉にあたっては、示談交渉に慣れた弁護士を立てるべきでしょう。
⑵無罪を主張する場合
無罪を主張したい場合には、そもそも犯罪が成立しているのか、被害者側の主張に妥当性があるかなどの点を慎重に検討する必要があります。また、捜査や取り調べ中の態度についても、黙秘する、絶対に罪を認めないなど、いくつか守るべきポイントがあります。
対処法を間違えてしまうと実際の裁判で不利になる可能性がありますので、法律のプロである弁護士の支援は不可欠です。
いずれの場合にしても早急に弁護士に相談し、法律的なアドバイスを受けるのが望ましいといえます。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。