痴漢をしていないのに身体拘束された!
痴漢は犯罪の中でも冤罪が多いといわれています。
これは被害者の供述が唯一の証拠となっていることが多く、事実の客観的な証明が難しいためです。そのため、本当はやっていなかったとしても、犯人として逮捕されるという事態は十分に起こりえます。
もし身の覚えのない痴漢で身体拘束された場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは痴漢冤罪の実態や事件に巻き込まれたときの対処法について解説します。
1 痴漢冤罪とは?
そもそも痴漢とは、相手の意に反して性的な嫌がらせをする行為を差します。満員電車の中で相手の体を触るなどの行為が典型例です。
痴漢はれっきとした性犯罪であり、被害者の心情を考えると決して許されるべきものではありません。その意味で「犯人を適切に処罰してほしい」という被害者側の思いは当然のものといえるでしょう。
しかし、一方で痴漢には冤罪が多く、まったくの無実の人間が犯人扱いされてしまうという問題も存在します。これが痴漢冤罪といわれるものです。人混みの中で密かに犯行が行われることの多い痴漢には目撃証言がなく、被害者の証言が唯一の証拠となるケースが多いという特殊な事情があります。そのため真犯人ではなくても、被害者の思い込みによって犯人だと名指しされてしまうことがあるのです。さらに、電車が揺れた拍子に偶然手などが相手の体に触れてしまい、痴漢だと間違われてしまう事態もありえます。これは特に満員電車の中でありがちな事例です。
2 痴漢冤罪事件に巻き込まれるとどうなるの?
一般的に、痴漢は現行犯逮捕により検挙されます。ちなみに、逮捕というと警察が行うものというイメージがあるかもしれませんが、現行犯および準現行犯の場合には一般市民でも逮捕状なしに逮捕を行うことができます。具体的には、犯行終了時または犯行から間もなく明白な証拠があるときです。つまり、被害者に腕を掴まれ、「痴漢です!」と言われた時点で、痴漢の容疑者として逮捕されてしまっているということになるのです。
現行犯逮捕されると、逮捕された人間が犯人であるという前提のもとに話が進んでいってしまいます。したがっていくら身に覚えのない罪だったとしても、実際には有罪になってしまう可能性がでてくるのです。
痴漢容疑で逮捕された場合、被疑者は警察の留置所や拘置所に送られ、取り調べを受けます。さらに、高い確率で勾留をうけるでしょう。長期間に身体を拘束されることですね。また、特に罪を認めず、冤罪を主張する場合には、取り調べ後に解放してもらえる可能性はほぼありません。最悪のケースでは、起訴から裁判終了後まで身柄を拘束されることもあります。
そして、裁判で有罪が確定してしまった場合、今度は刑罰を受けることになります。
痴漢では各都道府県の迷惑防止条例違反,もしくは令和5年に改正された不同意わいせつ罪が問われることになります。
不同意わいせつ罪の法定刑については次のとおりです。
第176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚がくしていること。 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。 |
一方、迷惑防止条例違反では各都道府県で多少の違いはあるものの、初犯の場合で6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金というのが相場となっています。
実際の判例においては初犯では罰金刑、懲役刑の場合でも執行猶予がつくことが多いです。しかし、最高裁で無罪判決が確定した防衛医大教授冤罪事件のように、疑われた犯行の内容によっては初犯でも実刑判決が下されるケースもあります。
3 万が一やってもいない痴漢容疑で身体拘束されたら?
無実を証明するのが難しい痴漢の場合、ごく一部の例外をのぞき逮捕・起訴されればほぼ有罪となってしまうという厳しい現実があります。
それでは、万が一痴漢冤罪で身体拘束されてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。このとき、真っ先にやるべきことが弁護士への連絡です。
逮捕された瞬間から、被疑者となった人間には弁護士をつける権利が与えられます。弁護士は取り調べ中の言動などについて適切なアドバイスをくれるほか、被疑者の早期釈放に向けて働きかけたり、不起訴処分・無罪判決の獲得に向けて弁護活動を行ったりします。
弁護士に依頼するのが早ければ早いほど、事態の悪化を防げる可能性も高くなります。やってもいない痴漢で刑罰や長期間の身体拘束を受けないためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。