一般人による逮捕
1. はじめに
「逮捕」といえば、警察官が犯人を捕まえるイメージをもたれている方がほとんどかもしれません。
テレビドラマなので、警察官が犯人の自宅に行き、何か紙を犯人に見せながら、逮捕する、という逮捕は「令状逮捕」といいます。
逮捕は、人の身体の自由を奪う行為ですから、令状という、裁判官が、この人を逮捕してもよいという判断がされていなくてはできないのが原則です。
一方で、万引きを見つけた警察官が、その場で犯人を逮捕する場面等を見たことがある人もいるかもしれません。
これは現行犯逮捕といって、犯罪が行われたことが明らかな場合に、例外的に令状をとらずに逮捕ができる場合です。
実は、後者の逮捕については一般人もできる場合があります。これを「私人逮捕」といいます。
犯罪にいつ巻き込まれるかわからない現代社会において、私たち一般人がどのような場合に、犯人を逮捕することができるのか、学びましょう。
犯罪はいつ起きるのかわかりません。そのようなときに事件解決を果たすために活躍するものが私人逮捕です。
犯罪から一般市民を守るために警察機関があります。しかし、警察がいつでもどこでもいるとは限りません。
2. 私人逮捕とは
私人逮捕とは、一般人による現行犯人逮捕のことです。常人逮捕といわれることもあります。
なぜ、一般人にも逮捕が認められるかというと、現行犯人を逮捕する場合であれば、
現行犯人が現に犯行を行っているか行い終わったところであるため、逮捕して身柄を確保する必要が高い上に、誤認逮捕のおそれがないといえる状況だからです。
3. 私人逮捕の要件
私人逮捕を行うには以下の要件を満たす必要があります。
①犯人が現行犯人(刑事訴訟法212条1項)または、準現行犯人であること(同2項)
(現行犯人・準現行犯人)
第212条1.現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。 2.左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。 1.犯人として追呼されているとき。 2.贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。 3.身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。 4.誰何されて逃走しようとするとき。 |
②30万円以下の罰金、拘留、科料の罪に当たる場合(過失傷害罪、侮辱罪など)は、犯人の住所、氏名が明らかでなく、犯人が逃走するおそれがある場合であること(刑事訴訟法217条)。
つまり、犯行のその現場あるいは、犯行の現場と同視できるような場所で、明らかに犯人と認められる場合でなければ、
一般人は逮捕することができませんし、比較的軽微な犯罪の場合は、犯人が知人であれば、逮捕することはできません。
要件を満たさないにもかかわらず、逮捕したり、逮捕しようとした場合には、逆に、逮捕罪や、暴行罪に問われる可能性があるので注意が必要です。
また要件を満たす場合でも、行き過ぎた暴行を加えて逮捕すれば、暴行罪や傷害罪に問われるおそれがあるので注意が必要です。
4. 私人逮捕後の対応
私人逮捕は、令状主義の例外として、一般人にも逮捕が認められるものに過ぎません。
私人逮捕を行った場合は、直ちに地方検察庁・区検察庁の検察官、又は司法警察職員に引き渡さなければならなりません。
私人逮捕をした後、一般人がその犯人を問い詰めたり、暴力を加えたり、自宅に連れ帰るなどはゆるされません。
このような行為をしてしまえば、暴行罪や、監禁罪に問われてしまう可能性があります。
5. 指名手配の犯人を発見した場合は?
すでに述べた要件からすると、指名手配犯人は、現行犯人ではないので、一般人は逮捕できません。
指名手配犯人を見つけても、自分で犯人の身体拘束をしてはいけません。かならず、110番通報するようにしましょう。
6. まとめ
犯罪はいつどこで起きるかわかりません。痴漢や万引きなどは、屋外で行われ、目撃者が少ないうえ、犯人の逃走が容易といえます。
どのような場合に犯人の身体拘束をしてよいのかの概要を理解することは、自分の身を守る手段の一つになります。
このコラムの監修者
-
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。