路上痴漢で逮捕されなくても、後日逮捕されることはある?
とある30代男性が,最寄りの駅から自転車で帰宅途中,人通りの少ない道路を走行していると,前方に若い女性が歩いていました。
その時,男性は,ふと出来心で,追い抜きざまに女性のおしりを触ってしまいました。
女性は最初驚いて固まっていましたが,我に返って「止まれ!」と声を上げました。
男性はその声を聞いた途端,逮捕されるのではないかと恐ろしくなり,そのまま逃げてしまいました。
その後,男性は逮捕されたらどうしようと不安な日々を過ごしています。
今回の記事では,路上痴漢は後日逮捕されてしまうのか?避ける方法はないのかについて解説していきます。
目次
1 路上痴漢で問われる罪とは
そもそも,路上痴漢という単語は,法律上存在しません。
痴漢と聞くと,電車内で行われるイメージがあることから,区別するために使われる言葉です。
大抵の場合,道路上で行われるわいせつな行為のことを意味します。
先ほどの例のように,路上ですれ違いざまに女性に触る行為の他,突然抱きつく,脅して無理やりキスをするようなケースもあります。
このように,路上痴漢といっても様々なケースがあります。
これらは以下の犯罪が成立する可能性があります。
(1)迷惑防止条例違反 (2)不同意わいせつ罪/不同意性交等罪 |
(1)迷惑防止条例違反
大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(卑わいな行為の禁止) 第六条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。 (略) 2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。 一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。 (略) 第十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者 二 第六条の規定に違反した者(第十五条の規定に該当する者を除く。) |
路上痴漢は,公共の場所にて人を激しく羞恥させる方法で,人の体に触れているとして,迷惑防止条例違反となる可能性があります。
大阪府の規定によると,量刑は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金です。
(2)不同意わいせつ罪/不同意性交等罪
(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。 一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕(がく)させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
(不同意性交等) 第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛(こう)門性交、口腔(くう)性交又は膣(ちつ)若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。 |
2023年7月13日に,強制わいせつ罪,強制性交等罪が,不同意わいせつ罪,不同意性交等罪に改正されました。
路上痴漢の場合であれば,以下の二点が原因で,同意をしない意思を表明し,又は意思を形成することを妨げたと判断される可能性が高いです。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。(フリーズ) 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕(がく)させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。 |
迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪,どちらの罪で問われるかは,行為態様が重要なポイントです。
例えば,すれ違いざまに服の上から胸やお尻を触る程度であれば,迷惑防止条例違反となる可能性が高いです。
しかし,突然抱き着いて女性の胸を長時間触り続けたり,無理矢理キスをしたりしたようなケースでは,不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
また,今まで,「膣若しくは肛門に陰茎以外の体の一部や,物を挿入する行為」は,わいせつ行為にあたるとされていました,しかし今回の改正で,性交等に含まれると変更されたので,今後は不同意性交等罪が成立します。
2 路上痴漢でその場で逮捕されなくても、後日逮捕されることはある?
痴漢は現行犯逮捕以外であれば逮捕されない,と思われる方もいるでしょう。
しかし,最近は防犯カメラに映っていたり,目撃者がいたり,それらの情報がきっかけで捜査が開始され,犯人特定に至る可能性があります。
また,痴漢は常習化することが多いです。
日々の通勤電車やその道中に日常的に行っていると,たとえ被害者に顔がバレていなくても「〇時台の〇〇線に痴漢の常習犯がいる」とマークされてしまいます。
もちろんすべての痴漢が逮捕されるとは言えませんが,最近は性犯罪の厳罰化の動きがあるので,警察も積極的に捜査することが考えられます。
3 路上痴漢で問われる罪の時効はある?
痴漢がどのような犯罪に該当するかによって,公訴時効が変わってきます。
時効とは,起訴されることが無くなるまでの期限を言います。
逆を言えば,公訴時効が経過するまで,いつ逮捕されて起訴されてもおかしくありません。
迷惑防止条例違反となる痴漢は,3年が公訴時効です。
しかし,不同意わいせつ罪であれば,12年が公訴時効となっています。
不同意性交等罪は,15年が公訴時効です。
さらに,今回の改正法では,不同意わいせつ罪と不同意性交罪の公訴時効は,被害者が18歳未満の場合はその者が18歳に達するまでの期間に相当する期間を加算されます。
つまり,不同意わいせつ罪の被害者が12歳である場合は、12年に6年を加算した18年です。
迷惑防止条例違反程度の痴漢であると加害者が思っていても,不同意わいせつ罪で捜査が行われた場合,その何倍も長い期間公訴時効が成立しないなんてこともあり得ます。
4 路上痴漢で逮捕されないためには
では,路上痴漢で逮捕されないためにはどうすればいいのでしょうか。
以下のような方法があります。
(1)自首する
「自首なんかしたら逮捕されるに決まっているじゃないか!」と言う声が聞こえてきそうですが,罪を犯した人が全員身柄を拘束されるわけではありません。
逃亡の恐れがあること,証拠の隠滅をする可能性があること等を総合的に考えて,逮捕の必要があると認められる場合に逮捕されます。
よって,自首をすることで,罪を認めて捜査に協力する姿勢をアピールすることになりますから,逮捕をされる可能性が低くなります。
もっとも,重大な事件であれば,この限りではないです。
(2)被害者と示談をする
被害者に謝罪し,示談を行うことによって,逮捕される可能性が低くなります。
示談とは,当事者で話し合いをし,被害者が加害者を許したことや被害届を取り下げたことなどを証拠化してもらうことが出来ます。
示談が行われることで,仮に逮捕されていても釈放されたり,その後有罪となったとしても言い渡される量刑が軽くなったりします。
(3)弁護士に早期に相談する
自首,被害者との示談交渉は,どちらも弁護士が介入することでスムーズに話が進みます。
弁護士は自首同行を行うことが出来ます。
弁護士とともに自首をする日を決め,その後予定されるであろう取り調べに向けて,弁護士からアドバイスを受けることが可能です。
被害者との示談についても同様です。
そもそも,路上痴漢は被害者が顔見知りである可能性がかなり低いです。
しかし,警察が路上痴漢の被害者の連絡先を直接加害者に教えることはまずないでしょう。
仮に既に連絡先を知っていたとしても,被害者としては直接連絡を取りたくないと考えていることが通常です。
そこで,弁護士が間に入り,円滑に示談交渉を進めていきます。
参考:【必見】痴漢の自首の6つのメリットと弁護士の自首同行のメリット
5 まとめ
今回の記事では,路上痴漢の逮捕の可能性,逮捕されないためにできることについて解説しました。
いつか警察に捕まるのではないかとおびえて日々を過ごすより,罪を認めてしっかり向き合うことが後世への一歩です。
そのためにも,まずは刑事弁護に強い弁護士に相談しましょう。
また。いつでも対応が可能な法律事務所を探すことも大切です。
法律事務所ロイヤーズハイは,各種の刑事事件に積極的に取り組んでおり、弁護活動実績も高いです。
さらに,難波・堺・岸和田・神戸大阪に法律事務所を構えており,土日祝日も対応できます。
路上痴漢をしてしまった方,またそのご家族の方は,ぜひ法律事務所ロイヤーズハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。