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性犯罪が未遂で処罰される場合

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犯行に着手したものの、途中で犯行をやめることを未遂といいます。
未遂の場合、通常の犯行と同程度に被害者の権利が侵害されたわけではないものの、その危険性から当該行為が罪に問われることがあります。
この記事では、未遂の定義についてご説明したうえで、性犯罪未遂の場合の量刑などについて解説します。

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1 未遂とは

未遂とは、犯罪の実行に着手したものの、最後まで犯行をやり遂げなかったことをいいます。
未遂の場合は被害者の権利の侵害はなされていませんが、その悪質性から処罰がなされます。
未遂には、自らの意思で犯行をやめる中止未遂と、自らの意思以外の理由で犯行を中断する障害未遂があります。

未遂犯が成立するのは、実行に着手したタイミングであり、これは被害者の身に危険が生じたタイミングを指します。例えば、旧:強姦罪の実行の着手が問題になった判例では、被告人が被害者をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした時点において強姦罪の実行の着手があつたものと解するのが相当である、と判断されました。(最高裁昭和45年7月28日第三小法廷決定)

未遂の場合は、罪が軽減または免除されます(刑法第43条)。

犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
引用元:刑法第43条

なお、具体的な量刑の軽減の仕方については、刑法68条にて次のように定められています。

法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。

 

一 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。

二 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。

三 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。

四 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。

五 拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。

六 科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。

引用元:刑法第68条

裁判官は、上記に定められた範囲内で他の情状を考慮しつつ、量刑を決定します。他の情状とは、犯行の手口のひどさ、被告人の反省の意、被害者の処罰感情、前科前歴の有無、被告人の周囲に今後再犯しないよう監視できる人はいるかなど、様々な事情があります。
これらの情状につながる要素として、被害者との示談成立が重要です。

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2 刑法における主な性犯罪と、未遂の場合の罰則

ここでは、刑法における性犯罪の内容についてご説明した上で、未遂の場合はどのような罰則が課せられるのかお伝えします。

 

(1)不同意性交等罪(旧:強制性交等罪)

2023年7月13日に施行しされた刑法改正法によって、強制わいせつ罪・強制性交等罪は、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪へと改正されました。

主な変更点は、「暴行または脅迫」を用いてわいせつ行為や性行為等を行った場合にかぎられず、「同意をしない意思を表明している又は、同意しないことを表明することが難しい状況でのわいせつな行為・又は性行為」も罰せられる可能性があります。

「同意をしない意思を表明している又は、同意しないことを表明することが難しい状況での性行為」とは、以下の状況を原因としていることが要件です。

① 暴行または脅迫

② 心身の障害

③ アルコール又は薬物の影響

④ 睡眠その他意識不明瞭

⑤ 不意打ち

⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖(フリーズ)

⓻ 虐待に起因する心理反応

⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく不利益の憂慮

 

さらに、性行為同意年齢も引き挙げられているので注意が必要です。

16歳未満の子供に対する性交等は罰せられます。

13歳以上16歳未満の子供であれば、行為者が被害者より5歳年上の時に処罰の対象になります。

「性交等」の範囲も広くなっています。

今までは、性交、肛門性交、口腔性交のみでしたが、これに加えて「性器や肛門に、陰茎又は体の一部、物を挿入する行為」が「性交等」に含まれるようになりました。

 

①未遂の具体例

不同意性交等罪は、令和5年7月13日に施行されたばかりであることを考えると、判例の判断が乏しいのが現状です。

前述のダンプカーの判例の通り、性交に向けた暴行・脅迫があった時点で実行の着手が認められることに異論はないでしょう。

また、もともとは旧:準強制性交等罪が不同意性交等罪に一本化されていることから、性交等の目的をもって、お酒を飲ませることは、不同意性交罪の実行の着手にあたると考えられます。

 

(2)不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪)

不同意わいせつ罪も、不同意性交罪と同様に、「同意をしない意思を表明している又は、同意しないことを表明することが難しい状況」が要件です。

性交等同意年齢にも相違はありません。

判例では、わいせつな行為の要件を次のように定義しています。

・性欲の興奮・刺激

・性的羞恥心の侵害

・善良な性的道義観念への違反

 

上記に当てはまる行為とは、例えば体に触れる、キスをする、スカートをめくるなどのことです。

 

①未遂の具体例

不同意わいせつ罪自体も、判例の判断が乏しいですが、旧強制わいせつ罪が改正されたものであることを考えると、やはりわいせつな目的をもって、被害者が同意しないことを表明できない状況を作成しようとした時点を実行の着手とすると思われます。

つまり、わいせつな行為をする意思を持って、お酒を飲ませた時点で不同意わいせつ罪の未遂が成立します。

先ほどの不同意性交等罪との違いは、行為者がどのような目的で実行に着手したか、です。

もちろん、「わいせつな行為をする目的でしかなかった」と言っていたとしても、犯行態様、犯行時や犯行前後の言動、犯行後の状況によって総合的に判断され、不同意性交等罪の未遂罪が適用される可能性があります。

 

(3)監護者わいせつ罪・監護者性交等罪

親などの監護者が、18歳未満の男女に対して、その人を監護する立場であることを悪用し、わいせつ行為を行った場合は監護者わいせつ罪に、性交等をした場合は監護者性交等罪に問われます。
監護者とは、子供と一緒に生活し、世話をする人のことをいいます。
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、家庭内での性犯罪を想定して、2017年の刑法改正で新設されたものです。

2023年の改正後も、そのまま残っています。
なお、親が子供に対して性交等をした場合は、暴力や脅迫を用いたり、心神喪失・抗拒不能状態に陥れたりしなくても罪が成立します。

 

①未遂の具体例

16歳の娘と性交しようとしたが、抵抗され逃げられた。

 

3 性犯罪の通常の罰則と未遂の際の罰則

性犯罪は、有期懲役が科せられますから、前述した通り、未遂で有罪判決が下される場合は、刑法第68条にしたがって、通常の懲役刑の二分の一の懲役刑が科されます。

罪名 罰則
不同意わいせつ罪 罰則:6ヶ月以上10年以下の懲役

未遂の罰則:3ヶ月以上5年以下の懲役

監護者わいせつ罪
不同意性交等罪 罰則:5年以上の有期懲役(有期懲役の上限は20年)

未遂の罰則:2年6ヶ月以上10年以下の懲役

監護者性交等罪

4 性犯罪未遂の判例

ここでは、性犯罪未遂に関する判例をご紹介します。

 

(1)旧強制わいせつ未遂で無罪になった事例

被告人は、被害者の手首を掴んで抱きつくなどの暴行をし、キスをしようとしたが抵抗されたため、その目的を達成しなかったという事件です。

この事件では被害者の証言以外の物的証拠や目撃者などがなく、被害者の供述の信用性が公判にて検討されました。

被害者の証言は臨場感があるもので、他の人とのメールのやり取りなど客観的な事実と一致する部分もありましたが、被害にあった時間や被害にあう前後の行動についての証言に不合理な点が多く、被害者の供述の信用性に疑問が投げかけられました。結果、犯罪の証明がないことから、被告人は無実となりました。

事件番号 平成21(う)127

事件名  強制わいせつ未遂

裁判年月日 平成21年10月22日

裁判所名・部 札幌高等裁判所  刑事部

 

旧強制わいせつのような性犯罪は、目撃者のいない密室で行われることが多く、上記の事例のように被害者の証言以外に証拠がないパターンも少なくありません。

この事件では、被告人側の弁護人が被害者の証言に反対尋問を行い、証言が曖昧であり証拠としての信用性がないことを証明することに成功しました。

 

(2)監禁、強姦未遂事件で有罪判決が下された事例

旧強制わいせつ罪で懲役2年に処された事例です。

被告人は、強姦をする目的で歩いていた被害者を車の助手席に押し込み、「騒いだりドアを開けようとしたら殺すぞ」などといい、さらに女性の顔面を殴るなど暴行を加えて性交をしようとしました。女性の乳房を触る、舐めるなど、旧強制わいせつにあたる行為をしたのち、女性が隙をみて逃走しました。

被告人は捜査段階から容疑を否認しており、被害者を侮辱するような言動をするなど反省の色が見られず、旧強制わいせつ未遂の前歴があるなど情状が悪く、旧強制わいせつ罪として懲役2年に処されました。

事件番号 平成15(わ)731</>

事件名 監禁、強姦未遂被告事件

裁判年月日 平成16年4月13日

裁判所名・部 神戸地方裁判所  第1刑事部

5 まとめ

不同意わいせつや不同意性交等などの性犯罪が未遂に終わった場合、法定刑の半分の懲役刑に問われることがあります。
また、未遂の場合は別の犯罪の構成要件を満たす場合があり、不同意性交等罪未遂ではなく不同意わいせつ罪が成立することも考えられます。当記事が未遂犯の量刑について理解する上での参考になれば幸いです。

このコラムの監修者

  • 田中今日太弁護士
  • 弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

    田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録

    弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。

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