性犯罪が未遂で処罰される場合
このコラムは,2023年7月13日までに起こした性犯罪に適応される強制性交等罪についてのものです。2023年6月23日に公布され,2023年7月13日に施行される改正刑法については,以下のコラムを参照してください。
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犯行に着手したものの、途中で犯行をやめることを未遂といいます。
未遂の場合、通常の犯行と同程度に被害者の権利が侵害されたわけではないものの、その危険性から当該行為が罪に問われることがあります。
この記事では、未遂の定義についてご説明したうえで、性犯罪未遂の場合の量刑などについて解説します。
目次
未遂とは
未遂とは、犯罪の実行に着手したものの、最後まで犯行をやり遂げなかったことをいいます。
未遂の場合は被害者の権利の侵害はなされていませんが、その悪質性から処罰がなされます。
未遂には、自らの意思で犯行をやめる中止未遂と、自らの意思以外の理由で犯行を中断する障害未遂があります。
未遂犯が成立するのは、実行に着手したタイミングであり、これは被害者の身に危険が生じたタイミングを指します。例えば暴行や脅迫を用いて性交等を行う強制性交等罪では、暴行を行った段階で未遂犯になる可能性があります。
未遂の場合は、罪が軽減または免除されます(刑法第43条)。
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
引用元:刑法第43条
なお、具体的な量刑の軽減の仕方については、刑法68条にて次のように定められています。
法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
一 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。
二 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
三 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
四 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。
五 拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。
六 科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。
引用元:刑法第68条
裁判官は、上記に定められた範囲内で他の情状を考慮しつつ、量刑を決定します。他の情状とは、犯行の手口のひどさ、被告人の反省の意、被害者の処罰感情、前科前歴の有無、被告人の周囲に今後再犯しないよう監視できる人はいるかなど、様々な事情があります。
これらの情状につながる要素として、被害者との示談成立が重要です。
刑法における主な性犯罪と、未遂の場合の罰則
ここでは、刑法における性犯罪の内容についてご説明した上で、未遂の場合はどのような罰則が課せられるのかお伝えします。
強制わいせつ罪・強制性交等罪
13際以上の男女に対し、暴力や脅迫をもちいてわいせつ行為をした場合は強制わいせつ罪に、性交等をした場合は強制性交等罪に問われます。なお、行為の相手が13歳未満の場合は暴力や脅迫の有無に関係なく罪が成立します。
判例では、わいせつな行為の要件を次のように定義しています。
- 1 性欲の興奮・刺激
- 2 性的羞恥心の侵害
- 3 善良な性的道義観念への違反
上記に当てはまる行為とは、例えば体に触れる、キスをする、スカートをめくるなどのことです。
なお、暴力や脅迫を用いて性交等をした場合は、より重い罪である強制性交等罪が成立します。
性交等とは、具体的には性交・口腔性交・肛門性交のことです。
わいせつ行為や性交等をしなかったとしても、暴力や脅迫を用いた段階で未遂罪が成立します。
○未遂の具体例
女性を殴ったり押さえつけたりして性交をしようとしたが、逃げられた。
準強制わいせつ罪・準強制性交等罪
他人が心神喪失・抗拒不能状態にあることに乗じたり、他人を心神喪失・抗拒不能状態にしたりしてわいせつ行為をした場合は準強制わいせつ罪に、性交等をした場合は準強制性交等罪が成立します。
心神喪失とは、精神障害によって正常な判断や行動ができなくなっている状態のことをいいます。
精神障害以外の理由で抵抗ができない状態のことを抗拒不能といいます。
性交やわいせつ行為をする目的で、他人を心神喪失・抗拒不能状態に陥れるとその段階で未遂になります。
○未遂の具体例
人を泥酔させて性交をしようとしたが、知人に発見され、とめられた。
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪
親などの監護者が、18歳未満の男女に対して、その人を監護する立場であることを悪用し、わいせつ行為を行った場合は監護者わいせつ罪に、性交等をした場合は監護者性交等罪に問われます。
監護者とは、子供と一緒に生活し、世話をする人のことをいいます。
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、家庭内での性犯罪を想定して、2017年の刑法改正で新設されたものです。
なお、親が子供に対して性交等をした場合は、暴力や脅迫を用いたり、心神喪失・抗拒不能状態に陥れたりしなくても罪が成立します。
○未遂の具体例
16歳の娘と性交しようとしたが、抵抗され逃げられた。
性犯罪の通常の罰則と未遂の際の罰則
性犯罪は、有期懲役が科せられますから、前述した通り、未遂で有罪判決が下される場合は、刑法第68条にしたがって、通常の懲役刑の二分の一の懲役刑が科されます。
罪名 | 罰則 |
強制わいせつ罪 | 罰則:6ヶ月以上10年以下の懲役
未遂の罰則:3ヶ月以上5年以下の懲役 |
準強制わいせつ罪 | |
監護者わいせつ罪 | |
強制性交等罪 | 罰則:5年以上の有期懲役(有期懲役の上限は20年)
未遂の罰則:2年6ヶ月以上10年以下の懲役 |
準強制性交等罪 | |
監護者性交等罪 |
性犯罪未遂の判例
ここでは、性犯罪未遂に関する判例をご紹介します。
強制わいせつ未遂で無罪になった事例
被告人は、被害者の手首を掴んで抱きつくなどの暴行をし、キスをしようとしたが抵抗されたため、その目的を達成しなかったという事件です。
この事件では被害者の証言以外の物的証拠や目撃者などがなく、被害者の供述の信用性が公判にて検討されました。
被害者の証言は臨場感があるもので、他の人とのメールのやり取りなど客観的な事実と一致する部分もありましたが、被害にあった時間や被害にあう前後の行動についての証言に不合理な点が多く、被害者の供述の信用性に疑問が投げかけられました。結果、犯罪の証明がないことから、被告人は無実となりました。
事件番号 平成21(う)127
事件名 強制わいせつ未遂 裁判年月日 平成21年10月22日 裁判所名・部 札幌高等裁判所 刑事部 |
強制わいせつのような性犯罪は、目撃者のいない密室で行われることが多く、上記の事例のように被害者の証言以外に証拠がないパターンも少なくありません。
この事件では、被告人側の弁護人が被害者の証言に反対尋問を行い、証言が曖昧であり証拠としての信用性がないことを証明することに成功しました。
監禁、強姦未遂事件で有罪判決が下された事例
強制わいせつ罪で懲役2年に処された事例です。
被告人は、強姦をする目的で歩いていた被害者を車の助手席に押し込み、「騒いだりドアを開けようとしたら殺すぞ」などといい、さらに女性の顔面を殴るなど暴行を加えて性交をしようとしました。女性の乳房を触る、舐めるなど、強制わいせつにあたる行為をしたのち、女性が隙をみて逃走しました。
被告人は捜査段階から容疑を否認しており、被害者を侮辱するような言動をするなど反省の色が見られず、強制わいせつ未遂の前歴があるなど情状が悪く、強制わいせつ罪として懲役2年に処されました。
事件番号 平成15(わ)731</>
事件名 監禁,強姦未遂被告事件 裁判年月日 平成16年4月13日 裁判所名・部 神戸地方裁判所 第1刑事部 |
まとめ
強制わいせつや強制性交等などの性犯罪が未遂に終わった場合、法定刑の半分の懲役刑に問われることがあります。
また、未遂の場合は別の犯罪の構成要件を満たす場合があり、強制性交等罪未遂ではなく強制わいせつ罪が成立することも考えられます。当記事が未遂犯の量刑について理解する上での参考になれば幸いです。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)
弁護士ドットコム登録弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。
大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。
お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。