性犯罪に関する刑法改正
法律の改正はとても難しいもので、簡単に改正されるというケースは稀です。
今回、性犯罪に関しての刑法改正が110年振りに行われました。
これは明治時代にできた制定を大正、昭和、平成という時代を超えて見直されたことも議論の的となりました。今回、性犯罪に関しての刑法改正についての内容をご紹介します。
目次
1 110年振りの改正での変更点からわかる問題点
明治40年に制定された性犯罪に関しての刑法を、さらに厳罰化するための刑法改正案が2017年6月に提出されました。
その後2017年6月16日に参院本会議で可決し、成立という流れになりました。
性犯罪の法律では内容の見直しに加えて、新たな規定の新設なども行われ、大幅な法改正となっています。
改正前の刑法や問題点などを加えて解説していきます。
⑴犯罪要件の問題
明治時代と比べて、性犯罪には様々な種類があります。
これまで強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪においては、男女共に被害者となっていました。しかし、罪名が強姦および準強姦に変わると被害者対象は女性のみでした。
また、強姦罪は13歳未満の女子に対しては性交のみ、13歳以上の女子に対しては暴行・脅迫を用いた姦淫が成立の要件でした。
準強姦であっても姦淫が成立の要件となっていたため、男子は対象外です。
他にも類似行為などは強姦などの罪に問えず、強制わいせつ罪扱いになってしまったことも問題でした。
⑵罰則の問題
刑法改正前は、強姦および準強姦の罪を犯した場合には3年以上の懲役、またこれらの罪の未遂であっても女子が死傷してしまった際には無期もしくは最低懲役5年と規定されていました。
しかし、法定刑の下限が低すぎることが問題になっていました。
⑶親告罪の問題
強制わいせつ、準強制わいせつ、強姦、準強姦罪では、どれも親告罪扱いとなっています。
親告罪は、被害者からの告訴がなければ刑事事件として起訴できないものであり、被害者のプライバシー保護や名誉などの点から訴追そのものを被害者に任せていました。
しかし、集団強姦や強制わいせつ等致死傷となった場合は親告罪には該当せず、2人以上が起こした強制わいせつや準強制わいせつに関しても親告罪にはなりません。
そこで強制わいせつ、準強制わいせつ、強姦、準強姦罪を親告罪のままにしておくべきかが問題でした。
2 性犯罪に関しての刑法改正の理由
姦淫は、陰茎を膣内に挿入する膣性交であると定義されています。
そのため、改正前の刑法では強姦や準強姦において被害者が女性限定となってしまいます。
しかし性犯罪での被害は姦淫だけでなく、これ以外の類似行為または口や肛門などに陰茎を挿入する行為も該当し、対象者も女性だけでなく男性でも起こりうることです。
姦淫の定義が定まってしまったことで、口や肛門などに陰茎を挿入する行為は強制わいせつおよび準強制わいせつ罪での適用しかできず、実情と法律の間に大きな壁ができていました。
また強制わいせつ、準強制わいせつ、強姦、準強姦罪が親告罪扱いであり、告訴についても被害者が判断することから、精神的に大きな負担になってしまうのです。
これらの点から、近年の性犯罪の実情や傾向を考慮し、強姦罪の構成要件や法の定形、また新たな罪名の定義と新設によって性犯罪の規定を見直すこととなりました。
3 性犯罪の刑法改正点
⑴罪名変更
これまで強姦罪(177条)や準強姦罪(178条2項)に関しては、被害者が女性に限定されていました。
今回の性犯罪の刑法改正では、強姦罪や準強姦罪から「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」に変更となりました。
また、被害者を女性限定から男性も含まれることとなり、これまで「姦淫」としていた部分を「性交」と改めることになりました。
さらに行為においては性交に限定せず、口腔性交や肛門性交も含んで「性交等」という内容になったため、同じように処罰の対象とされました。
⑵新設された罪名
改正される前の性犯罪関連の刑法では、強制わいせつ罪や強姦罪などの罪において13歳以上の被害者に対しての行為は、暴行または脅迫を用いたことが要件に含まれていました。
さらにこの暴行または脅迫に関しては、被害者の反抗を抑制するまででなく、著しく困難にする程度のことが判例や通説でした。
また性犯罪の規定では、判例や通説などで示される暴行や脅迫に至っていない場合、暴行や脅迫といった手段を用いていない場合、被害者が身体もしくは心神喪失の状態でない場合には性暴力であっても処罰の対象にはならなかったのです。
しかし家庭内で性的虐待が行われていた場合、被害者が簡単に拒否できる状態にないこと、その後の人生に与える影響がとても深刻であることなどから、新たに「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」が新設されました。
監護者わいせつ罪や監護者性交等罪は、親などの監護者が立場を利用して18歳未満と性的な行為を行った場合、暴行や脅迫などがなくても処罰対象とできるものです。
さらに監護者わいせつ罪は強制わいせつ罪、監護者性交等罪は強制性交等罪と同等に処罰できる仕組みになっています。
⑶親告罪から非親告罪への変更
改正前は強制わいせつ、準強制わいせつ、強姦、準強姦罪の性犯罪に関して、被害者が告訴しなければ起訴できない親告罪という扱いになっていました。
改正により、強制わいせつ罪および準強制わいせつ罪、強制性交等および準強制性交等の罪、新設された監護者わいせつおよび監護者性交等の罪では、親告罪を削除して非親告罪への変更となりました。
これらの内容を告訴するには精神的な負担がとても大きく、負担の大きさや精神的苦痛などから告訴をしないということも多くありました。
しかし、非親告罪になったことで被害者の精神的負担の軽減が期待できます。
また、改正刑法は公布日から起算して20日経過すると施行となりますが、改正刑法前の施行前に起こった事件であっても原則適用されて、告訴しなくても起訴できるようになりました。
⑷有期懲役の引き上げ
改正刑法前の強姦罪および準強姦罪では、3年以上の有期懲役という法定刑の下限が定められていました。
しかし、強制性交等罪および準強制性交等罪への名称変更と同時に法定刑の下限を、3年以上の有期懲役から5年以上の有期懲役としています。
監護者性交等罪も5年以上の有期懲役ですが、これらの未遂犯を犯したことで被害者が負傷や死亡してしまった場合は、強制性交等致死傷罪の成立によって無期または6年以上の有期懲役の引き上げとなりました。
また、集団強姦等罪に関しては4年以上の有期懲役でしたが、これに関しては引き上げではなく削除となっています。
集団強姦等罪の有期懲役削除に関しては、有期懲役および禁固刑の上限が15年から20年、他の罪や再犯などは30年に加重されることなども鑑みた結果と考えられます。
4 今回改正刑法の対象とならなかった事例
今回、大幅に性犯罪に関する刑法改正がされましたが、まだまだ見直しが必要な部分や課題も残されています。
例えば新たに名称が変わった強制性交等および準強制性交等の罪ですが、男性が含まれた一方で女性器や肛門に性的玩具や手指を挿入した場合、性交と同じ苦痛を味わっているにも関わらず、強制わいせつおよび準強制わいせつにしか該当しません。
監護者わいせつおよび監護者性交等の罪では、上司などの雇用関係者や教師と生徒、スポーツ指導者と選手などでは適用外で、限定的な部分がまだまだあります。
そのため、同じような苦痛を感じても適した罪名にならない可能性が考えられます。
5 まとめ
今回、110年振りに性犯罪に関する刑法改正が大幅にされましたが、まだ内容が限定的な部分があります。性犯罪に相当する内容であっても、法律によって裁かれる部分が異なる可能性も考えられます。
さらなる厳罰化がされたものの、被害者となれば精神的に厳しい部分もあるでしょう。
このような場合は、刑事事件に詳しい弁護士へ早めに相談することをおすすめします。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。