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コロナ差別は刑事上の犯罪となりうるか

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コロナウイルスに起因する事件や差別がニュースになっています。
憲法では人を差別することは禁止されていますが、コロナ差別は刑法上の犯罪になり得るのでしょうか。

この記事では、コロナ差別が犯罪になるのか、行きすぎたコロナ差別をされた場合はどういった対応があり得るのか、といったポイントについてご説明します。

 

1 コロナ差別は刑事上の犯罪となりうるか

ここでは、コロナ差別の違法性や、差別に付随して成立しうる犯罪などについて解説します。

 

⑴コロナ差別自体を罪に問う法律はない

今のところ、コロナ差別に対応した刑法上の罪というのは存在しません。
法律が作られたり改正されたりするのは、大きな社会問題が起きてから一定期間が経過した後なであり、現段階ではコロナや感染症に起因する差別を罰するような法律は作られていません。

社会問題を解消するために新しくできた差別関連の法律には、例えば次のようなものがあります。

・障害者差別解消法:障害があることを理由に差別することを禁止する法律

・ヘイトスピーチ解消法:人種差別を煽るヘイトスピーチの抑止と解消を目指す法律

・部落差別解消推進法:部落差別がない社会を実現するための法律

 

なお、憲法14条では次のように差別を禁止してはいるものの、差別をしただけで直ちに何らかの罪に問われることはありません。

憲法14条

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

引用元:憲法14条

 

⑵差別は定義が難しい

差別という行為を定義づけるのは難しいという見方があります。
刑法では、犯罪にあたる行為を条文にて定義しています。
例えば、窃盗罪の場合は、違法行為の対象になる人のことを『他人の財物を窃取した者』傷害罪の場合は『人の身体を障害した者』といったように、問題となる行為やその主体と客体が客観的かつ明確に定義されています。

一方特定の発言が差別にあたるかどうかについては、個人の感性に依存します。
そのため、理不尽な差別は感情的には共感されやすいものの、客観的な事実として特定の行為が差別であることを証明するのは困難です。差別をする人に対して特定の行為が差別であると認めさせることは簡単ではなく、特定の行為が正当な区別なのか、差別なのか争われるような事例もあります。

 

⑶行きすぎたコロナ差別をすることで問われうる罪

コロナ差別に対応する刑罰はないものの、コロナ差別に付随して犯罪の構成要件を満たす行為をした場合は、何らかの罪に問われる可能性があります。ここでは、行きすぎたコロナ差別をすることで成立しうる罪についてご説明します。

 

①名誉毀損罪

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 

引用元:刑法第230条

 

名誉毀損罪に問われると、上記のような罪に問われます。名誉毀損の構成要件は、次のとおりです。

・公然と

・事実を摘示し

・人の名誉を毀き損した者

 

公然とは、不特定または多数の人が知り得ることをいいます。構成要件に事実を摘示とあるので、仮に特定の人がコロナウイルスに感染していたとしても、そのことを理由に公然と人の社会的評価を下げるような表現をした場合は、名誉毀損罪に問われることがあります。

 

②侮辱罪

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 

引用元:刑法第231条

 

事実かどうかに関係なく、不特定または多数の人の前で人を侮辱すると、侮辱罪に問われることがあります。
拘留とは1日以上30日未満の間、刑事施設に収監すること、科料とは1,000円以上10,000円未満の財産刑のことをいいます。

参考:【早わかり】侮辱罪の厳罰化!どう変わった?罪に問われたらどうするべき?

 

③脅迫罪

生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

引用元:刑法第222条

 

京都市にある大学で、70人以上のクラスターが発生しましたが、このことが原因で同大学には抗議や苦情の連絡が多数寄せられたそうです。中には、「大学に火をつけろ」「殺すぞ」という連絡もあったようです。
このような悪質な予告は脅迫罪の要件を満たすため、被害届が提出された場合は逮捕されることも考えられます。

参考:脅迫罪・強要罪

 

④業務妨害罪

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

引用元:刑法第233条

 

業務妨害罪には、偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の2つがあります。

偽計業務妨害罪とは、嘘の情報を流布して業務妨害をすることです。
「あの店ではクラスターが発生した」などと嘘の情報をネット上に書き込んだ場合は偽計業務妨害罪に当たります。

また、偽計業務妨害罪が成立するためには流布した情報が嘘でなければならないため、真実を流布したようなケースでは偽計業務妨害罪ではなく、行為の内容に応じて別の罪に問われる可能性があります。

威力業務妨害罪とは、威力によって他人の業務を妨害した際に成立する罪です。
威力とは例えば暴行や脅迫などのことです。
「店に火をつけるぞ」などといって業務を妨害した場合は、威力業務妨害罪に問われる可能性があります。

 

2 コロナ差別を受けたらどうすればいいのか?

悪質なコロナ差別を受けた場合の対処法には、次のようなものがあります。

 

⑴犯罪に発展しそうな場合は警察に被害届を提出する

単に差別を受けただけでは警察に通報する必要性は少ないですが、「火をつけるぞ」「殺すぞ」などの犯罪予告を受けた場合は、警察に通報しましょう。脅迫や業務妨害など、放置をしておくと身の安全が脅かされたり、経済的な損失を被ったりするような場合は、自力で対応しようとせず、警察の力を借りた方がいいでしょう。

 

⑵ネットに書き込みをされた場合は、書き込み削除と損害賠償の請求を

インターネット上に個人の社会的信用が損なわれるような書き込みや、営業妨害にあたるような書き込みをされた場合は書き込みの削除や、場合によっては損害賠償の請求を検討しましょう。
インターネット上の書き込みは拡散や炎上のリスクがあるため、内容によっては個人や企業の権利が大きく毀損されかねません。
弁護士に依頼をすることで、迅速に書き込みを削除しつつ、書き込みが繰り返されないよう犯人を特定し、説得をすることも可能です。

参考:知らずに犯罪者?SNSでの誹謗中傷は何罪に該当するのか

 

3 まとめ

コロナ差別は不当に人権を侵害する行為であるため許されるものではありませんが、差別によって直ちに刑法上の犯罪に該当するわけではありません。ただし、行きすぎたコロナ差別により他の犯罪の構成要件を満たすことは十分に考えられます。

犯罪予告や脅迫があった場合や、インターネット上で誹謗中傷がなされた場合は、問題を放置しておくと大事になりかねないので、警察や弁護士への相談を検討してください。

このコラムの監修者

  • 田中今日太弁護士
  • 弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

    田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録

    弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。

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