コロナウイルスを理由とした中国人入店拒否は法律上違法?刑事罰の対象となりうるか
昨今コロナウィルスの蔓延により、北海道都知事が外出を控える『緊急事態宣言』が出されていたり、国が休校の要請を出していたりでウィルス蔓延を食い止める動きが活発化しておりますが、大手弁護士ポータルサイト『弁護士ドットコム』のQ&Aでこのような投稿がされておりました。
現在新型コロナウイルスが流行していますが、そんな中でつい最近、数日間香港へ仕事で出張をして日本へ帰国しました。
帰国後に飲食店へ客として行き、店主に香港から帰国したと話をすると、店から病気が発生すると店が責任を取れないので2週間は店に来ないようにと言われました。
お店の気持ちもわかるのですが、この場合の入店禁止というのは法律上問題がないのでしょうか?
引用元:弁護士ドットコム
お店側の事情としての心情は理解できますが、基本的にお店がお客の出入りを禁止するのは自由ですので、法的に問題となる可能性は低いでしょう。ただ、ウィルスを理由としていたとしても『中国人』だからという理由で入店を拒否することに法的な問題はないのでしょうか。
本問題は、新型コロナウィルス感染予防の一環として、北海道のラーメン屋『麺やハレル家』がTwitterに投稿した一文が発端となったトピックスですが、感染症を理由とした入店拒否ではなく、国籍や身分で入店を拒否することで、刑事罰になる可能性を検証します。
本日より「新型コロナウイルス」の発生に伴う感染予防対策として「ハレルヤ3店舗、まんざら、ねぎま」の全店舗「中国人観光客の入店を禁止」致します。ご理解の程、宜しくお願い致します。 pic.twitter.com/pHRr4nDIfg
— 麺やハレル家 (@menyahareruya) January 29, 2020
目次
1.人種を理由とした宿泊や入店拒否は法律上、違法の可能性がある
類似の有名な事例として、『小樽市公衆浴場入浴拒否事件』というものが挙げられます。
本件は,原告らが,被告Aが経営する小樽市所在の公衆浴場に入浴しようとしたところ,外国人であることを理由に入浴を拒否されたことについて(以下「本件入浴拒否」という。),本件入浴拒否は,憲法14条1項,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権B規約」という。)及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)等に反する違法な人種差別であり,これにより人格権や名誉を侵害されたとして,被告Aに対し,不法行為に基づき,損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めるとともに,本件入浴拒否という人種差別が行われたのは,被告小樽市が人種差別撤廃のための実効性のある措置をとらなかったことが原因であり,このような被告小樽市の不作為は,人種差別撤廃条約に反し違法であるとして,被告小樽市に対し,不法行為(国家賠償法)に基づき,人格権の侵害による損害賠償を求めた事案
引用元:裁判所
要約すると、公衆浴場で入浴マナーが悪い外国籍観光客に他の利用者から苦情が相次いだことから、「外国人の方の入場をお断りします。JAPANESEONLY」という張り紙を掲示していたが、それでも入浴しようとした外国籍観光客の入浴拒否を申し出たところ、憲法14条1項、国際規約及び人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)に違反する行為だとし、損害賠償請求等を求めた事件です。
この事件で観光客側は、損害賠償200万円と、北海道新聞朝刊全道版に別紙記載の謝罪広告(2cm×2段)の掲載を求めていましたが、掲載の請求は棄却するものの、利用拒否としたことは違法であるとして原告らの損害賠償請求100万円を一部認めました。
この判例に則るのであれば、たとえ中国人であっても、入店拒否をした店舗側には、不法行為として損害賠償請求をされるリスクがあると言えます。
憲法違反による罰則は?
本判決にも記載のあった憲法14条1項、「第十四条すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
これに違反した場合ですが、憲法は国や行政が守るべき法律ですので、店舗側や個人が罰せられることはありません。
国際人権B規約・人種差別撤廃条約に違反したことで刑事罰はあるか?
国際人権B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)26条では、下記のようなことが書かれています。
すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。
引用元:市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)
ただ、例外を全く許していないとうことではなく、客観的かつ合理的な理由及び目的があれば問題にならないとしています。違反したとしても「義務に違反する措置をとる権利を行使するこの規約の締約国は、違反した規定及び違反するに至った理由を国際連合事務総長を通じてこの規約の他の締約国に直ちに通知する。」という旨の記載があるのみで、どの様な罰則があるかはわかりませんでした。
法律上、名誉毀損や侮辱の罪になる可能性はある
今回は損害賠償請求でしたが、もし公衆浴場側が入店拒否の際に、差別的・侮辱的な発言をしていた場合は
- 名誉毀損罪(刑法230条):3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
- 侮辱罪(刑法231条):拘留又は科料(1000円以上1万円未満の徴収罰)
に該当し、刑事責任を問われる可能性あったでしょう。
(名誉毀き損)
第二百三十条公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
引用元:刑法
(侮辱)
第二百三十一条事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
引用元:刑法
2.まとめ|来店拒否は可能だが中国人など特定の人種を制限することはできない
施設側にも営業の自由があります。世界的な問題となっているコロナなど、ウィルスを理由とした客観的かつ合理的な理由がある場合、迷惑行為防止の目的で行う来店拒否であれば適法でしょう。
ただし、「中国人の観光客」「外国人の方」という人種に条件を付けていると違法となる可能性は高いですし、損害賠償請求に発展する可能性もあります。
その他入店拒否が違法になる可能性のあるケースとして
- 1.同性カップルを理由とした入店拒否
- 2.身体的な特徴を理由とした入店拒否など
レピュテーションリスクや予防法務の観点から、ただし法の運用を心がけて欲しいものです。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)
弁護士ドットコム登録弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。
大手法律事務所で管理職を経験し、性犯罪事件、窃盗・横領などの財産事件、暴行傷害などの暴力事件などで多数の不起訴経験あり。刑事弁護委員会所属。
お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。